Column:Point Of View
2015年7月1日号
あなたの名前を教えてください
農学部応用植物科学科 松田 靖 准教授

ある金曜日の夜のこと。そろそろ帰宅しようかと準備をしていたときに携帯が鳴った。確認すると卒業生の名前。久しぶりにかかってくる電話の多くは、農業に関係する仕事上の質問か、結婚の報告だ。さぁ、どちらだと予想しながら電話に出ると、意外な言葉が耳に飛び込んできた。

「先生、シソと大葉って同じですよね?」。聞こえてくる音から居酒屋にいると容易に想像できる。「同じか違うか対立しちゃって。信頼できる第三者に判断してもらおうということで電話してしまいました」とは卒業生の弁。答えは―シソと大葉は同じ植物。卒業生の勝ちとなった。

なぜ1つの植物に2つの名前があるのか。実はシソは葉以外にも、芽や花穂が食用として出荷される。そこでシソの葉のみを出荷する際に、「大葉」と命名して売り出したのがことの発端のようだ。1961年に静岡の生産組合が、翌年には豊橋でも同じ名前が使われるようになり、関西を中心に「大葉」の名前が定着したらしい。そのため今でも地域によって呼ばれ方が違っている。

「大葉」の名前が意外に新しいことにも驚くが、最近、さらに面倒なことになっている野菜がある。セリ科の植物で、和名(日本での標準名)は「コエンドロ」。だが、これが最も聞きなじみがない名前である。ほかにどう呼ばれているか挙げてみると、香菜(コウサイあるいはシャンツァイ)、パクチー、コリアンダー。これらの名前を聞いて「ああ、あれか」と思われる方は多いかもしれない。和名となったコエンドロはポルトガル語、以下順に中国語、タイ語、英語での名前なのだ。

日本に導入されたときにポルトガル語の名前が採用されたのだが、その後、各国の料理とともにそれぞれの名前が使用されたために、このようなことになった。これらがすべて同じ植物の名前だと気づかないことも、多いのではないだろうか。

不思議なもので、一見するだけではただの草、ただの野菜だったものが、名前を知るだけでぐっと身近な存在になってくる。まずは名前とその由来を知る。さらにどこの生まれでどうやって広がっていったか。名前をきっかけに、さらに知りたいと思うことが増えていく。人を知るのも、植物を知るのもそのきっかけは同じなのかもしれない。
(筆者は毎号交代します)