Column:知の架け橋
2015年8月1日号
「国際化を考える」
国際文化学部国際コミュニケーション学科
大形利之 教授

イスラム教徒とどう向き合うか
「ハラール」について考える


「ハラール」とは、イスラムの教えに照らして「許される」ことを意味するアラビア語である。なじみのないこの言葉を知っている日本人でも、イスラム教徒は豚肉を食さない、お酒を飲まない、というくらいの理解ではないか。実際にはもう少し深い理解が必要である。ここでは、人口約2億5千万人のうち、9割近くをイスラム教徒が占める世界最大のイスラム教徒大国インドネシアでの、筆者の限られた知見に即して論じてみたい。

イスラムの教えに「忠実に」従うと、豚肉由来、またアルコール由来の原材料を用いた調味料や添加物などが入った飲食物、また化粧品や医薬品なども一切認められていない。豚肉以外の肉であっても、聖地メッカの方角を向き、祈りを唱えながら処理された肉でないとダメである。商品のパッケージには通常、ハラールであることを示した「ハラール認証マーク」がついている。インドネシアでは食品・医薬品・化粧品については「LPPOM MUI」という、筆者も調査で訪問したことのある機関で検査、認証されている。

だが実際、ハラールに関してインドネシアのイスラム教徒はそれほど厳格ではない。完全に爛魯蕁璽襪弊験〞を送っている人はそう多くない。現地で生産された食品はハラール認証を受けていても、輸入品の中にはそうでないモノもたくさんある。教えに忠実な生活を送ろうとする人々は、購入の際に必ず認証マークの有無を確認する。日本食ブームもあってか、筆者がお土産に持参するハラールでない日本のお菓子は、女性イスラム教徒らに大人気である。結局、個人の心の問題である。イスラムは個人と神の、一対一の宗教である。

しかし、インドネシアも急速な経済発展のもと、イスラム教徒中間層が厚みを増し、生活に余裕が生まれ、子どもの教育に力を入れている。親は子どもにイスラム教徒として正しい生活を送ってほしいと願う。経済的余裕が、イスラム教徒らしさを目覚めさせているといえる。それゆえ、今後はハラールの認証や対応が、増加傾向にある日本へのインドネシア人旅行者受け入れにあたっても重要なカギを握ることになろう。

東海大学においてもイスラム圏からの留学生が年々増加していることから、学生食堂でハラールに則したメニューを提供する準備が進められている。これは時代の趨勢に沿った対応であり、敬虔なイスラム教徒のために急がれよう。

では、日本はこうしたイスラム教徒にどう向き合って、何ができるだろうか。たとえば医薬品では、ワクチンに豚由来ではない牛由来の製品開発がすでに進められているらしい。既存の製品は禁止だからそれに代わる原材料を発見し、同等品を創り出せということだ。日本の世界最先端の技術力をもってすれば、世界に先駆けて先行者利益を得ることも不可能ではない。なにせ世界のイスラム教徒のマーケットは16億人以上とされている。日本は巨大なハラール市場を研究し、参入することで新たな商機を開拓できよう。

 
(写真)インドネシアの食品や医薬品、化粧品は「LPPOM MUI」という機関でハラールについて検査、認証されている(筆者提供)

おおがた・としゆき 1960年兵庫県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)外国語学部インドネシア語学科卒業。東京外国語大学大学院地域文化研究科修了。亜細亜大学経済学研究科博士課程単位取得。専門は東南アジアの政治。著書に『開発と政治』『現代インドネシアの政治と経済』『インドネシア 再生への挑戦』(いずれも共著・アジア経済研究所)などがある。