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特集

2015/09/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

観光と農業のコラボ!? 

異分野連携で地域を活性化

経営学部観光ビジネス学科 小林寛子 教授

地域発展のキーワードは「観光」にあり!? 近年、地方自治体などで地域振興のカギとして観光産業への期待が高まっている。2013年度に熊本校舎に開設された経営学部観光ビジネス学科も、“観光人材”の育成を通じて地域の期待に応えようと教育研究活動を展開している。開設3年目を迎えた同学科で、地域の資源を生かした多彩な取り組みに携わる小林寛子教授の研究室を訪ねた。

行政や地域住民が中心となって都市部から人を呼び込む「着地型観光」や外国人旅行者の誘致など、観光を活用した地域振興のあり方はさまざま。小林教授はそれらに従事するにあたって、「観光学の研究者や学生にとどまらず、他学科の教員や地域産業に携わる市民、行政関係者らと協働して他分野と連携することが重要」と語る。

「私の専門であるエコツーリズムの分野は、豊かな自然環境を守りながら観光資源として活用しようというもの。熊本でも、農学部のキャンパスがある阿蘇地域で以前から、エコツーリズム、グリーンツーリズムに取り組まれています。しかし、光るお宝はたくさんあるのに全体としての連携が乏しく、発信力が足りないのが実情です」

小林教授の研究室では「阿蘇の宝を守り生かした観光」という課題のもと、学生たちとともにたびたび現地へと足を運び、自然環境や農業、観光施設などの現状を調査し、連携のあり方を探る。そのほかにもガイド技術の向上を図ろうと、案内役向けのガイドブックを作成。さらに「歩く旅プロジェクト」を結成し、観光に適した素材を集め阿蘇全体を歩いて巡るコースづくりに取り組む。「将来的には訪日外国人向けのプログラム化まで視野に入れています。阿蘇は面積が広く、地域ごとに特徴は異なります。それらの地域間連携を深めることも目標の一つ。学生たちには、地域の人々をつなぐコーディネーターとして育ってほしいと考えています」


“宝”を掘り起こし磨く 特産品を生かす企画も

小林教授のフィールドは阿蘇にとどまらず、同県内の天草と上天草両地域の観光振興や熊本市西区芳野校区にある里山の活用など幅広い。「人口減少地区にどのように対応するのか、さらにその中で観光分野が果たす役割について検討を続けています」と小林教授。フィールドワークでは「地域のファンづくり」を掲げ、地域を訪れる人や定住者を増やす仕組みづくりを考察している。「学生たちからは“若者へのアピールが重要”という意見が出ました。まず地域を知ってもらうことが大切。SNSを駆使して情報発信に取り組むほか、イベント運営にも挑戦しています」

9月26日には、夕日を見ながら地区の特産品であるミカンを使ったドリンクを楽しんでもらう「オレンジカクテルナイト」と題した催しを開く。学生たちは区役所の許可も得て、地域住民へのプレゼンテーションも実施。他大学の学生にも呼びかけ、約20人が参加する予定で、住民とともに準備を進めている。「これらの活動を通して、地域の宝を学生と住民とが一緒になって掘り起こし、磨いていくことが新しい観光プログラムの創出や地域活性化につながるきっかけづくりとなり得ると考えています。農業県としての熊本が元気になるためには、農家を支える新しい仕組みが必要。農業と観光のコラボレーションの実現こそが求められているのです」

(写真上)今年5月には阿蘇地域でオーストラリアの環境ボランティア団体などと「日豪環境ボランティアプログラム」を運営。観光ビジネス学科の学生も多数参加し、森林や草原の保全活動に取り組んだ
(写真下)学生たちと観光振興イベントを考案



focus
オーストラリアで培った経験生かし
若い世代に“人”の大切さを伝える


ラジオ局のアナウンサーから一転、オーストラリアへと渡りエコリゾートの開発やマーケティングコンサルタント、人材育成などに多方面で活躍してきた小林教授。「アナウンサー時代はニュースや情報番組、深夜放送など幅広い番組でパーソナリティーを務めました。しかし、仕事に追われる中で、自分には他者に語れる経験が少ないと気づくことに。新しい方向性を模索し、海外で“見る”“聞く”経験を積もうと飛び出しました」と振り返る。

オーストラリアで携わってきた博覧会での通訳やリゾート開発、アナウンサーの経歴を生かした観光PRビデオをはじめドキュメンタリー番組制作などの仕事を通じて、その豊かな自然に魅了されたという。「オーストラリアでは、自然環境を生かしながらも保全にかかわる“エコツーリズム”の概念が確立されていました。その魅力を日本でも伝えたい」と、日本でエコツーリズム推進協議会(現・NPO法人日本エコツーリズム協会)の設立にも力を注いだ。

それらの活動を経てと東海大学へと赴任。幅広い分野で培ってきた経験を学生たちに伝えている。「これまでさまざまな場所で多くの人たちに助けられて、一歩一歩道を切り開いてきましたが、これからはその成果を若い世代へと伝えていく順番です。観光でも地域でも宝は“人”。人材をうまく活用すれば地域は元気になり、よそから人も集まってくる。そんな場所で活躍できる人材を育てたいですね」

 
こばやし・ひろこ1956年東京都生まれ。昭和女子大学文学部卒業。86年からオーストラリア・ブリスベン在住。92年にフレーザー島でのエコリゾート開設に携わり、93年にはプロマークジャパンを設立。エコツーリズムコンサルタントとして商品開発、マーケティングなどを手がけた。2013年より現職。著書に『エコツーリズムってなに?~フレーザー島からはじまった挑戦~』(河出書房新社)など。

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