Column:Point Of View
2015年10月1日号
秋の気配はトイレの香り
農学部応用植物科学科 松田靖准教授

学生時代を過ごした宮崎から阿蘇に移って初めての9月も終わりに近づいたころのこと。学生と食堂に向かう途中、特徴のある甘い香りがふと鼻をくすぐった。キンモクセイだ。

宮崎では11月下旬に漂う香りだったので、同じ九州でも阿蘇の秋は早いんだと感じていたそのとき、思いがけない言葉が複数の学生の口からほぼ同時にこぼれてきた。「あ、トイレのにおい!」

彼らが言うには、この香りがキンモクセイだとわかっている。ただ「キンモクセイ」という言葉は、植物名として認識するより先にトイレの芳香剤として知った、あるいはこの香りからは反射的にトイレを想像する……と。私にとっての秋の香りが、10歳も変わらない学生にはトイレの香りであることに少なからず衝撃を受けたのは、もう19年前のことになる。

その後数年間、9月には必ず「トイレのにおい」発言があったのだが、2000年を過ぎたころからそんな声も聞かれなくなった。どうやらあまりに売れすぎたキンモクセイの香りをつけた芳香剤の生産が終了し、それを知らない世代が大学生となったらしい。同時にキンモクセイ自体の認識率も低下したということなのだろうか。

そうであれば、いわば「偽物」、「擬物」であっても、「本物」を知るきっかけとして役割を果たしていたのかもしれない。

2005年には「食育基本法」が制定され、子どもたちに食を知ってもらうための活動が行われるようになった。もしかしたらカニを食べて「カニカマ」と答えた子どもが多かったのかもしれないが、それでも全く知らないよりはよいのかもしれないと思えるようになっていた。

去年の9月。風に乗って届く香りに気づいた私の横で、一人の学生がつぶやいた。「もう秋ですね」。聞き返せば「だってキンモクセイが……。おばあちゃんから教わって」。久しぶりの反応にうれしい反面、複雑な感情。20代後半で赴任した私も、気づけば学生の父親世代。今後も学生とのジェネレーションギャップは広がり、さらに祖父母世代に近づきつつあることに気づかされた秋だった。(筆者は毎号交代します)