Column:Point Of View
2016年1月1日号
「ここは九州ですか?」
農学部応用植物科学科 松田 靖 准教授 

1年で最も寒さが厳しくなる1月下旬。定期試験と重なるこの季節が近づくと、毎年のように1年生から「阿蘇は本当に九州ですか?」の声が聞こえる。年に数回は10センチ以上の積雪があるばかりでなく、路面の凍結、水道管の凍結による断水が生じる生活が、温かいと思っていた九州で起こるとは想像していなかったことだろう。

標高500メートルに位置する阿蘇校舎。標高が100メートル上昇すると気温は0.6度下がる。そのため熊本市内と比べ3度は低下するうえ、地形的に風が強いことから、4〜5度は下がる。実際に類似した気温の地域を探すと、福島県南部に相当するという報告もあり、「ここは九州ではない」ことを実感するのかもしれない。

さらにもう一つ、不思議な記録がある。こんな地方の村にあり、1000人ほどの学生数ながら、2008年度から8年間連続して、福井県を除く46都道府県の出身者がそろい、ここだけで小さな小さなリトルジャパンが形成されているのだ。これだけ全国的に集まるとそれぞれの当たり前がそうでないことに気づく。中でも「食」に関する差は大きく、誰かの部屋に集まって晩御飯を食べてから試験勉強……となるこの時期に知ることになるらしい。

特に「おでん」。具材としてちくわぶ、はんぺん、黒はんぺんが売っていない……から始まり、餃子巻きって何?ジャガイモ、サトイモ、それともイモ入れない? タコは? 貝じゃないの? 牛すじ? 豚骨? 軟骨? さらにトッピングに味噌がない、魚粉がない……。そういった意味でも、ここは九州ではないのかもしれない。

神奈川県出身の学生と宮崎県にある試験場に向かったときのこと。パームツリーが中央分離帯に植えられている市街地の風景を見た学生が、「やっと九州に来ました」とつぶやいた。人の判断に関与する五感の割合は視覚が87%と圧倒的で、他はそれぞれ一桁になるという。ほとんどを視覚で判断していることから、最近は、映像等のバーチャルな世界の情報を得ることで十分知っていると感じるのだろう。しかし視覚だけで完全なわけではない。視覚だけでは得られない、五感をフルに活用して感じ取る情報。こんな時代だからこそ、その経験が必要なのかもしれない。(筆者は毎号交代します)