Column:知の架け橋
2016年2月1日号
「国際化を考える」
農学部応用植物科学科
村田浩平 准教授

虫に学ぶ国際化戦略
したたかに、高尚な意図を


船のマストに吊るした捕虫網で虫が採れると聞いたらどう思われるだろうか? 大気中を漂う微小な生物を大気プランクトンという。大陸からジェット気流に乗って我が国に飛来するセジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカといったイネの害虫たちだ。こんな虫たちに国境はない。

そもそも虫が地球上で繁栄し得た大きな進化適応は、成長に都合の悪い季節をやり過ごす「休眠」という技を身につけたことと、都合が悪い場所から飛んで逃げる術を獲得したからだとされている。ゆえに虫たちは世界中、いたるところにはびこっている。これこそ、虫たちの国際化戦略であったろう。最近は物流の増加に伴った虫たちの密航も増加している。人間も利用するしたたかさ、それが昆虫である。

今年、奄美大島でミカンコミバエが再発した。この虫、ミカンや熱帯果樹の大害虫だが、日本では1918年に沖縄で発見された東南アジア原産の外来昆虫なのだ。奄美ではオスを誘引するメチルオイゲノールと殺虫剤を組み合わせた雄除去法(雄を根絶して種を根絶やしにする方法)で80年に根絶したが、海外から再侵入したらしい。国境をまたぐ害虫の根絶には国際協力が欠かせないが、課題も多い。

ところで、我々にとっての国際化は、ただ外国に行けばよいというものではないだろうが、虫にならってしつこく続けることが肝心だ。さらに重要なのは、自身が日本に興味を持つことかもしれない。自分の根っこを知ろうとすることだろう。日本語や神話、風習や風土、先祖に興味を持つこともその助けとなる。私は自己のアイデンティティーを意識しようと努力する過程で初めて国際化を果たせるような気がするし、そういう姿勢がなければ異文化を理解することは難しいのではないだろうか。

私の国際化は、若い時期の昆虫学を通じた取り組みだ。これはトビイロウンカの防除に活用可能な寄生菌に関する発見や、全国的にも貴重な草原性の蝶であるオオルリシジミの蛹さなぎに寄生する寄生菌に関する発見につながった。得意を伸ばすのがいちばん早い。大学は、肩の力を抜いて学生の力を信じ、多様な価値観をもとにそれぞれの国際化を支援する仕掛けをつくれるとよいだろう。そこには大海を飛び越えるロマンとドラマの演出が必要だ。また、忘れてならないのは、着地点がユートピアとは限らないということだ。国際化の努力を実らせるためにも、若者たちを素晴らしい着地点へと誘導するシステムもつくらないといけない。多くの大気プランクトンが風まかせの末、海の藻屑となるように努力が報われない。 

国際化とは、英語を話すことだけだろうか? 外国人とかかわるようになると、国際社会における不公平さや狡ずるさやしたたかさへの対応に迫られることがある。誤解を恐れずにいうと、この問題を調整できる人材は多くないようだ。我が国の国際化教育は、虫のようにしたたかであってほしいし、かなり高尚な意図があってほしいものである。

 
(写真)体長約3.5ミリのセジロウンカの成虫

むらた・こうへい 1966年大阪府生まれ。九州東海大学農学部(現東海大学農学部)卒業。 九州東海大学大学院博士課程にて博士(農学)取得。同大学の助手を経て現職。専門は応用昆虫学、保全生態学など。