Column:本棚の一冊
2016年2月1日号
『コンタクト』(上・下)

見方を変える力
外国語教育センター
結城健太郎 講師


アメリカの天文学者、カール・セーガンによるSF小説である。天文学者の主人公らが、宇宙から受信したメッセージを解読して移動装置を造り、物語が進む。

この小説に触れたのは、私が研究者への道を歩み始めたころのことだったと思う。当時、私は自分のクリスチャンとしての信仰と、大学での研究・教育は両立するのか、一人の人間の中に調和して存在し得るのか、仮にそうだとして自分は受け入れる力があるのかと葛藤していた。

人生の中で、相矛盾するように見える存在を受け入れることは、ときとして苦悩を生む。後ろめたい気持ちを感じさせることさえあるかもしれない。それが後から見れば、もしくは他者から見れば小さな悩みだったとしてもだ。

物語の中では、宇宙からのメッセージをめぐり、科学者である主人公と宗教者が対話する。主人公は宗教や信仰に懐疑的だが、自らの科学的探求の結果として、宇宙の深淵で慈悲に富む圧倒的に知的な存在と邂逅するという、他者には証明困難な体験をし帰還する。しかしこれは、多くの信仰を持つ者がたどった道でもあることに思い至る。その後、彼女は自分の出生の秘密さえ知らなかった事実を突きつけられ、同時に宇宙に埋め込まれた意志の片鱗を垣間見るところで物語は終わる。

私は何も科学と宗教の関係について学んだと言いたいのではない。宇宙であれ、その創造者であれ、圧倒的な存在の前で人は謙虚になるということを学んだのだ。自分についてさえすべては知り得ない。

今どんなに悩んでも、物理法則により地球は押し出され回転し、その上の塵ちりにすぎない自分に巨大な太陽の光が届く。その太陽さえ大宇宙の中では塵だ。そのとき、私は自分の葛藤を塵の小さな震えのように感じ、楽になった。そして、自分の置かれた場所で、前と上を見て進むことにした。そして、今の私がある。信仰と研究はともにある。

人は悩み、苦しむ。しかしそのときは、視点を変えてみよう。見方を変えてみよう。対象の大きさや形が変わり、自分の気持ちが変化するかもしれない。変える力が足りなければ、それを借りよう。想像力に富む人、観察力に富む人、彼らの書いた本を読むことは、きっとその役に立つだろう。

『コンタクト』(上・下)
カール・セーガン著
池 央耿・高見 浩訳
新潮文庫

 
ゆうき・けんたろう
1977年山形県生まれ。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。2012年より現職。専門はスペイン語学。