Column:本棚の一冊
2011年2月1日号
『風の谷のナウシカ』


ナウシカが紡ぐ言葉
工学部土木工学科 寺田一美 助教



この原稿を依頼されたとき、「さぁ、どの本を選ぼうか?」と非常に迷い、迷いに迷った結果、私の進路を決定づけてきたこの一冊についてお話しすることにしました。これは私にとってかけがえのない、人生のバイブルとでもいうべき本です。

私がこの本に初めて出会ったのは小学校低学年のころでした。私の母は本が大好きで、本棚には小説や漫画がたくさん並んでいました。小さいころは『ズッコケ三人組シリーズ』(那須正幹著、ポプラ社)などの児童文学を愛読していましたが、漫画はそれにも増して大好きで、本棚にあるものを片っ端から読み漁っていました。そして、ほとんどの漫画を読み終わった後に残されていたのが『風の谷のナウシカ』でした。

これは本棚の中でも「大事な、大人向けの本」の段に置いてあり、なんだか大人の世界をのぞき見するような、背伸びしたような気持ちで手に取ったことを覚えています。次に手に取ったのは中学生のときで、このころの私は環境問題に強い関心を持っていました。読み進めると、風の谷やトルメキア、そして腐海といったある種の架空世界、でも実は現実の社会・環境問題を鋭く反映している世界を、ナウシカとともに旅することで「自然と人とのかかわり方」を深く考えさせられる本であることが分かりました。この本に非常に感動した私は、環境に携わる仕事・研究がしたいと思うようになりました。

その後、高校、大学、大学院と進み、今は工学部で水環境の研究を行っています。一見スムーズに見えますが、それぞれの進路を選択する際には非常に悩みました。「進むべき道はこれでいいのか?」「本当は何をしたいのか?」と迷ったときには、いつもこの本を読み返しました。なぜなら、私のルーツがそこにあるからです。この本は初心を思い返させてくれるだけでなく、いつも新たな発見と学び、感動を与えてくれます。もちろん、本の内容は変わりません。ですが、現在の自分がそこから感じ取ることと、過去、そして未来の自分が感じるであろうことは、同じとは限らないのです。

ナウシカが紡ぐ言葉は、読む側の受け取り方によってその形を、意味を変えていきます。読めば読むほどに、味の出る作品です。私の、そしてあなたにとってのナウシカは今、何を語りかけてくるでしょうか?

『風の谷のナウシカ』
宮崎駿著(徳間書店)

 
てらだ・かずみ 1981年福岡県生まれ。筑波大学第一学群自然学類卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修了。専門は海岸工学、水環境学。