Column:知の架け橋
2016年4月1日号
「幸福を考える」
文学部北欧学科 吉田欣吾 教授

北欧から考える幸福の条件
ゆったり暮らせる社会とは


フィンランドをはじめ北欧5カ国はすべて、国連「世界幸福度報告2016」で上位10位までに入っており、世界で最も幸福度が高い地域といわれています。一方の日本は157カ国中53位という結果になっています。それでは、幸福を感じる条件とは何なのか、北欧の国を例に私なりに考えてみます。

まずは「お金」ですが、所得が増えれば幸福感も高まるかというと、必ずしもそうではありません。所得が増えても人間はすぐに慣れてしまい幸福感は低下しますし、所得は人より多くないと満足感に結びつかないからだそうです。逆に、人より所得が低ければ幸福感も低下するので、格差が大きな社会では全体として幸福感が低くなるという研究結果があります。北欧は先進国の中でも最も格差の小さい地域ですから、格差と幸福感の相関関係は当てはまりそうです。逆に日本では格差が広がる傾向にあるようです。幸福感の高まりは期待できないかもしれません。

次に「仕事と生活の調和」が挙げられます。女性も外で働くのが当たり前の北欧ですが、夕食は家族全員でとるのも当たり前、小さな子どもへの読み聞かせは父親の役割、多くの労働者が4週間程度の夏休みを取り、湖畔で夏小屋暮らし。うらやましいほど「仕事と生活の調和」がとれています。一方の日本では「過労死」「ブラック企業」と、働くことが人間を追いつめる状況があります。

そして「将来に対する安心感」。北欧では人々の貯蓄率が低いことがわかっていますが、それは「将来に対する安心感」が高いためです。たとえば、教育費は大学まで無償、老後の年金に対する信頼度も高くなっています。これは、国家が積極的に人々の生活の安心に「介入」しているためです。日本では、将来に自信が持てず子どもをもうけられない、子どもができても保育園がないので母親は働けない、働けないので成長した子どもを大学にやれない、そして、老後に待ち構えるのは貧困。まさに不安の連続です。

日本で「幸福」に至るための手段は「競争」です。「グローバル化」などという意味不明の言葉が「競争」を正当化します。でも、競争などせず「ゆったり」生きるほうが幸福だし、環境にだって優しいはずです。フィンランドでは、教育を支える考えは「競争」ではなく「協働」です。不思議なことに、皆で協力することを重視し「競争」を否定することで、フィンランドは国際的に高い「競争力」を持つ国をつくり上げています。

これまでの話をまとめると、幸福感を高めるためには「格差のない」「もっとゆったりした」「国が人々の安心を保証し」「ばかげた競争などしない」社会をつくればよい。もう一つ、幸福になるために不可欠な条件があります。それは、自分の「アイデンティティー」を尊重されることです。それを許されない人々は、「障害」者、性的少数派、少数民族、外国人や移民など数多くいます。

私にとって永遠のテーマは「いかにゆったり暮らせる社会をつくるか」「どうしたら異なる人間同士が共存できるか」の2つです。残念ながら、「ゆったり」生きたい私は2番目の研究にほんの少し取り組んでいるだけです。学生の皆さんは、互いの存在を認め合い、ゆったりと生きられる社会をつくるために、「のんびりせず、眠る時間もないほど必死に」勉強してください。

 

よしだ・きんご
早稲田大学教育学部、東海大学文学部卒業。著書・訳書に『「言の葉」のフィンランド』(東海大学出版会)、『フィンランド語文法ハンドブック』『フィンランド語トレーニングブック』『フィンランド語のしくみ』(以上、白水社)、『サーミ人についての話』(翻訳:東海大学出版会)、『サーミ語の基礎』(大学書林)など。

(写真)のどかな昼下がりを過ごすフィンランドの人々