Column:本棚の一冊
2017年3月1日号
『鉄道廃線跡を歩く 失われた鉄道実地踏査60』


今日、行ってこれる探検
経営学部観光ビジネス学科 高野誠二 准教授



あなたの人生で最後に、探検、をしたのはいつのことでしょうか。村外れのこの道はどこまで続くんだろう? そこに何があるんだろう? 秘密基地を作るにはこの森の中のどこが一番いいだろう? と、小さいころの私は探検が大好きでした。

探検したい! と思うその気持ちは人間の本能、好奇心そのものです。つまりは、探検とは学びの原点とも言えるもの。でも探検って、大人になるにつれて、とても縁遠くなってしまうものですよね。かつて探検大好き少年だったそんな私に、この本は数々の大感激をもたらしてくれました。

本書は文学作品や研究書ではなく、いわばデータ本です。全国の廃線となった鉄道の跡の様子が大雑把に紹介されている、一見つまらなさそうな本です。

でも現地に行って探してみると、あるある! かつて鉄道が走っていた痕跡がそこかしこに、人知れず確かに残っている。地図と首っ引きで線路の跡を探し歩くと、山中には深い藪に埋もれたトンネルがまだ口を開け、街の片隅では線路が当時のカーブそのままに路地に化け、かつての駅前では旅館や農業倉庫の廃屋に気づく。ついに汽車が開通した! と狂喜する当時の人々や、忙しくにぎわった街の様子も目に浮かんでくるよう。これって、小さいころにわくわくした、あの探検そのものじゃないか!

もともと新旧の地図を見比べながら歩き回るのが好きな私にとって、本書との出会いはまるで同好の士を見つけた心境でした。ローカルでマニアックな内容ばかりですが、今ほどインターネットが身近でない当時、この本は貴重で欠かせない情報ソースでした。こんなにも大喜びした人は幸いにも私だけではなかったのか、本書は第10巻まで続編が刊行され、さらに全5巻に再編集された改訂版や、多くの類書も世に出るようになりました。

鉄道や道路といった交通路は、近代化産業遺産の一つです。その来歴や盛衰の理由、果たした役割を知ることは、地域学習そのもの、地理学そのものです。地元の人にすら忘れられた一つ一つの遺構は、地域の歴史や誇りを静かに雄弁に語る文化財であり、多くの人を魅了する観光資源にもなりえます。

地理学者である私は今、廃線や廃道を教育や観光に活用する方法を探っています。探検、それは驚くほど身近な所でもできるもの。そして、小さかったあのころの無邪気な好奇心に一瞬で引き戻してくれるもの。そんなことを本書は気づかせてくれます。

『鉄道廃線跡を歩く 失われた鉄道実地踏査60』
宮脇俊三 編著
JTB
 
たかの・せいじ 1973年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。13年4月より現職。専門は人文地理学。