Column:Point Of View
2017年5月1日号
タビの形、それぞれ
経営学部観光ビジネス学科 高野誠二 准教授

私は、とっても幸せな人です。なぜなら今、好きなことを仕事にできているのだから。

私は小さいころ、絵本よりも地図が大好きでした。地図好きが高じて旅好きとなり、大学で学ぶ地理学の面白さに狂喜した私は、地理学者を目指すようになりました。しかし、目の前に立ちはだかったのが「ポスドク問題」。国の政策で大学院の定員は大幅増となったものの、財政難と少子化で大学での求人は細り、就職できない博士が世にあふれた問題です。

地理学者になりたい! そのためには目いっぱい勉強しないといけない。そして遠い先の就職できるその日まで、生活資金が途切れてはならない。ありったけの対策が必要でした。まず、時間と交通費の節約のために通学をあきらめました。卒業できなくなるよ!と思われそうですが、心配ご無用。私は大学に行かなくなったのではなくて、大学から帰らなくなりました。院生室に泊まり込んだ最長記録が35連泊。次点は33連泊で、その後は無数……。ほとんど大学に住みついていました。

もう一つの工夫は旅に出たとき。地理学の根幹はフィールドワークですから、それ自体はやめられません。一度たりとも払ってないのが宿泊費。夏の南国でも冬の北国でも、宿は常に寝袋一つ。朝起きたら自分に雪が積もっていたこともありました。

さらなる努力は、せっかく出かけたフィールドでの収穫を極大化すること。始発から最終の列車まで訪ねる場所を隙間なく詰め込み、睡眠は3〜4時間、丑三つ時でも灯りと地図を片手に“ブラタカノ”し続ける日々。そんな野宿は通算で4桁の数となり、日本全国800ほどある「市」のうちで私がまだ行ってないのは残り5市だけです。

そこまでやっても、なお就職は遠かった。非常勤講師の年収150万円ではまともに暮らせるわけがない。四百数十万円の奨学金の返済猶予は「職に就いて稼ごうとしないあなたは取り消し」扱いが目前……と切羽詰まったその最後に、東海大学が世間的にいう正社員として採用してくれました。博士号取得から8年、大学の学部を卒業してから17年目の春でした。

旅は、人と違っていてもそれでよい。どんなにヘンな形でも、自分が納得できるなら。自分自身のタビなのだから。

(筆者は毎号交代します)

 
たかの・せいじ 1973年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。13年4月より現職。専門は人文地理