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特集

2017/06/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

交流の歴史を掘り起こす

メキシコの未発掘遺跡を調査
文学部アメリカ文明学科 吉田晃章 講師

考古学の世界でラテンアメリカ(中南米)といえば、メキシコのユカタン半島で栄えたマヤ文明や現在のペルーなどのアンデス文明が知られている。しかし、当時の人々の生活や社会構造は未知の部分が多い。文学部アメリカ文明学科の吉田晃章講師は、主にメキシコ西部を中心として地域間交流の実像解明を目指し、5月から現地のミチョアカン大学と共同で未発掘の遺跡調査を始めている。

ナスカの地上絵や空中都市マチュ・ピチュなど、中南米の文明に関する遺構は日本人にも人気が高い。だが、これら一部の著名な文明に関する研究は進んでいるものの、未解明の文明も多く、地域間交流の実態はほとんどわかっていない。

吉田講師は「メキシコ西部原産のトウモロコシが南米にも広がっているなど、交流の痕跡は残っている。しかし、メキシコ西部では本格的な遺跡の発掘調査が始まったのが1990年代ということもあり、遺跡や遺物の比較研究はほとんど行われていないのが実情です」と語る。

これまで吉田講師は、メキシコ西部からエクアドル、コロンビアの各地に残されている竪坑墓に着目。現地を歩き、過去の調査団による報告書も参考にして、その分布状況を調べてきた。結果、メキシコ国内では竪坑墓の多くは紀元前800年ごろから紀元後300年ないし400年ごろに作られており、メキシコ最大の湖・チャパラ湖の西側にのみ分布していることなどを確認してきた。

古代からのメッセージ 未知の刻点十字文
しかし、「チャパラ湖東部はほとんど調査されておらず、より広い範囲に分布している可能性がある」と吉田講師。そこで着目したのが、チャパラ湖に注ぎ込む2つの川に挟まれた場所にあるロス・アガベス遺跡だ。近年の調査でここから、古代の人々が記した「刻点十字文」などの幾何学模様を記した岩絵が多く見つかっており、「岩絵の聖地」と呼ばれている。

「刻点十字文だけでも16点あり、これまで最多とされてきたメキシコ中央部のテオティワカン遺跡よりも多い。幾何学模様はここにいた人々が高度な文明を営んでいたことを示しており、この遺跡が人々の暮らしにおいて重要な役割を果たしていたことが想像されます。調査を深めることによって中部や西部との交流の一端も明らかになると期待しています」

複数のピラミッドを確認 祭壇跡なども出土
発掘前の地形調査では、複数のピラミッドや広場を確認。さらに5月に実施した試掘調査では、遺跡周辺から多数の土器片が見つかり、祭壇部分とそこにつながる土を踏み固めた階段も発見した。さらに、階段からは、遺跡の年代測定の資料となる炭も見つかるなど大きな成果を収めた。

「遺跡内部からはほとんど土器が見つからないことから、この場所が清潔に保たれていた神聖な場所だったことが見て取れます。今後も調査を続け、遺跡の全容と竪坑墓の有無などを確認していきます」と話す。

発掘調査の現場には、住民が数多く見学に訪れるなど、“自らのルーを知るきっかけになる”と地元からも熱い注目を集めている。「中南米産のトウモロコシやジャガイモが世界の食文化に大きな影響を与えたように、この地域の文化を知ることは世界史の新たな一面を知ることにもつながる。特定の地域内でも、地方や周辺地域が中央の文化に影響を及ぼすことも多い。今後も『地方からの視点』を大切にしながら、中南米の文化間交流の姿を解明したい」


focus
アンデスコレクションを活用
学際研究にもつなげたい


中南米に興味を持つようになったのは、「なんで世界史の教科書にはこんなにも記述が少ないのか?」と疑問を持ったのがきっかけだった。「唐辛子もトマトも中南米原産。この地域の人たちが栽培種に育てた努力の上に今の私たちがいるはずなのだから、もっと研究されてしかるべきだ」と感じたという。

日本では南米文化を学べる学科は少ないが、その一つであるアメリカ文明学科の前身となる旧文明学科に進学。現地で遺跡調査に参加するためにはその国で生活するのが近道だと、在学中に日本語教師の資格を取り、JICA派遣の教師として現地で働き、遺跡調査に参加してきた。

「本格的な研究の歴史が浅いことから、遺跡から新たな事実が見つかると学説も書き換わる。そのダイナミズムがたまらない」と語る。

学生にもその一端を味わってもらおうと、東海大学が所蔵する中南米の遺物群「アンデスコレクション」を授業で活用。実際に遺物に触れながら学ぶ機会を設けている。

「ペルーのモチェ文化やナスカ文化の遺物約1700点で構成されているコレクションは、国内でも有数の規模を誇っています。それに触れられるのは東海大だけ。遺物の修復と年代測定などの調査を進めていますが、今後はアンデス地域の諸文明を解明する学際研究にもつなげていきます」

 
よしだ・てるあき
1971年神奈川県生まれ。東海大学文学部文明学科卒業後、2003年大学院文学研究科博士課程後期を単位取得満期退学。文学修士。10年より現職。専門は、メキシコやペルーを中心とする中南米先史学。

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