特集:研究室おじゃまします!
2017年10月1日号
復興に向けて研究成果を提供
海底から見る東日本大震災
海洋学部海洋地球学科 坂本泉准教授


2011年に発生した東日本大震災から6年。一歩一歩復興への歩みを続ける岩手県で、海洋学部海洋地球学科の坂本泉准教授は海底観測を続けている。陸上とは違い、人の目に触れることの少ない被災地の海底には、どのような世界が広がっているのだろうかーー坂本准教授の研究室を訪ねた。

2012年から水産業再生を目的とした文部科学省「東北マリンサイエンス拠点形成事業」の一環で、岩手県の大槌湾、越喜来湾や広田湾などで年に2回、海底の調査に取り組む坂本准教授。

海底の調査は、直接対象を見たり計測したりすることが難しいため、音波が用いられる。物質に当たった音波がはね返る強さを測り、地形や調査対象の底質などを調べる中で、陸上と同様に海底も、甚大な被害を受けていることがわかってきたという。

「津波により新たに堆積した土砂は厚い場所で1メートル近くに達し、もともとの生態系は海底下に沈んでしまいました。多くの底生生物は死滅し、震災から数年経った沈んだ船体から油が流出するなど、海洋環境は大きな影響を受けているのです」

人と自然は共存する存在 調査結果で復興を後押し

海底は大きく変化したが、「一方で自然は、これらの変化から少しずつ元の姿を取り戻そうとしています。震災直後は地中に埋まって死滅したと思われた貝類が、数年をかけて再び採れるようにもなりました」。

自然の力によって静かに復元を進める東北の海だが、陸での復興活動が海中に新たな環境変化をもたらしている側面もある。震災で10メートル以上の高波に襲われた陸前高田市などでは、防災のために山を切り崩して、かさ上げ工事が行われた。積まれた土砂は雨で端から流れていき、その一部が河川から湾に流れ込み、新たな土砂を海中へともたらしている。

「海洋環境だけを考えれば、決してよいとは言えませんが、人と自然は、共存関係にあります。相互に大きな被害を受けた今回の震災で、どちらを優先するべきか結論づけるのは外部の私たちではなく、そこで生活する人々です。私たちの役割は、自然の仕組みを解明し、海洋環境の変化を科学的に検証し、国や自治体、漁業関係者が有益な施策を取るためのデータを提供することだと考えています」

地元高校での出前授業 地域に貢献する人材を育成

坂本准教授の研究室では、調査結果を被災地域に還元するために、14年から岩手県立高田高校海洋システム学科の生徒を対象にした出前授業を展開している。事前に採取した試料を高校へと運び、生徒とともに分析する中で、地元の海への興味を養ってもうことが目的だ。

今年6月には初めて生徒が広田湾での調査に参加。調査用の船に乗り採泥機を用いた底質試料採取や底生生物試料採取、水温塩分の観測に挑戦した。今後は採取した試料を分析し、地域住民を招いた研究発表会も予定している。

「将来は生徒たちだけで海洋環境を調べ、漁協や海洋利用者に対して有益な情報を発信できるようになってほしい。彼らが自立して地域に貢献できるようになることも、復興につながる一つの道ではないでしょうか」


focus
地質調査は経験が財産


学生時代から日本にとどまらず、海を渡って地質調査をしてきた坂本准教授。「山や海で地層や岩石を観察するのは、まるで宝探し。珍しい試料がお宝であると同時に、一つひとつの調査地での経験も私にとって大きな財産でした」

地質学は、「どれだけの調査をしてきたかが物をいう世界」。だからこそ学生にも調査の機会を数多く用意し、自分の体で体験しながら教科書どおりではない工夫と改良を自ら考えられるように、指導しているという。研究室に所属する学生は、「坂本先生には厳しい指摘も受けますが、学生のことを考えてくれているからこそ。調査に参加することで、貴重な学生生活を送ることができています」と語る。

岩手県での調査にも毎年延べ200人から250人の学生が参加している。 

「被災地での調査は学術的な成果も大きいのですが、学生の成長のためにも大きな意味を持っています。初めは機器の使い方に四苦八苦する学生もいますが、慣れてくれば自ら考え、生き生きとした表情を見せてくれます。被災地を訪れる使命感を持って動いているからこその成長ではないでしょうか。私自身も、東北で培ったデータとノウハウを今後予測される災害に役立てられるよう研究を進めていきたい」

 
(写真上)海底には津波によって引き込まれたがれきが無数に広がる地点もある
(写真中)研究室に所属する学生とともに船上から音波などを使って、海底を調査。学生にとっては、貴重な学びの場にもなっている
(写真下)県立高田高校の生徒を対象に実施している出前授業

さかもと・いずみ
1963年埼玉県生まれ。東海大学大学院海洋学研究科海洋科学専攻博士課程後期修了。新技術事業団科学技術研究員、海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)研究員などを経て、2007年に東海大学海洋学部海洋地球科学科に着任。