Column:知の架け橋
2016年12月1日号
幸福を考える
国際文化学部デザイン文化学科 石塚耕一 教授

心を豊かにするデザイン
美に触れ、所有することの喜び


豊かな生活とは経済的に恵まれていることではない。北欧を訪問して感じたのは、その豊かさの一つがデザインにあるということである。建築、インテリア、プロダクトなど一つひとつが美を意識してつくられているように思えた。ここに来ると、美しいデザインが心を豊かにし、それが日々の生活に潤いを与えていることに気がつく。
 
昨年9月、デザイン文化学科の海外フィールドワークで訪問したスウェーデンのストックホルム市立図書館は、スウェーデン建築の父と呼ばれるエリック・グンナール・アスプルンドのデザインによるものである。
 
360度本に囲まれたパノラマ状のエントランスホールの美しさは圧巻であり、3階まである書庫を歩いていると、その美しさに感動してしまう。知的な空間はどこまでも美しくあるべきであると言っているかのようである。
 
そのこだわりはテーブルやイスのデザインにまで及んでいて、使う人の視点に立った機能性があることも魅力であった。古いものが修理されながら今でも使われていることには感心させられる。
 

今夏、同じくフィールドワークで訪問して圧倒されたのは、デンマークのルイジアナ近代美術館である。一般的に美術館は過去の作品を展示するための箱だが、この美術館は現代の人々の生活の一部になろうとしている。丘の上からはオーレスン海峡の青い海が見え、自然豊かで広大な庭園にはヘンリー・ムーアやアレクサンダー・カルダーの作品などが点在している。過去の作品は現代の一部となり、私たちにとてつもない「美」を与えてくれる。こんなぜいたくな美術館をほかに知らない。
 
スティーブ・ジョブズはソニーが好きだった。ウォークマンを開発した盛田昭夫を尊敬し、盛田やソニーの研究所を訪問しては多くのことを学んでいる。しかし、彼はしだいに日本製品の欠点に気がつくようになり、「日本の家電製品は海岸を埋め尽くす死んだ魚のようだ」と発言した。どれもが同じデザインで、価格競争しか念頭にない日本の製品には魅力がない、あるいはウォークマンにあったような美しさや創造性がそこから消えてしまったということだろう。この予言どおりに、以後、日本の家電製品はひたすら衰退を続けることになる。
 
ジョブズがこだわったのはデザインである。価格は高くても、美しいデザインと操作性を徹底的に追求した。その結果としてiPod、iPhone、iPad、MacBookなどが生まれ、Appleは大成功を収めることになる。デザインには価格かそれ以上の価値があることを実証したのだ。極めつけはサンフランシスコに建設中の新社屋である。そのデザインの美しさは間違いなく歴史に刻まれることだろう。
 
私にとっての幸福とは、美しいデザインに触れるときである。美しいデザインは心を豊かにし、所有することの喜びを教えてくれる。
 
(写真)ルイジアナ近代美術館は1856年に建てられた邸宅を改装したもので、戦後の作品を中心にコレクションされている。世界一美しい美術館として知られている(撮影=筆者)

いしづか・こういち 1955年北海道生まれ。北海道教育大学教育学部卒業。道立高校の美術教員、校長を経て2013年より現職。専門はグラフィックデザイン。近著に『ビートルズのデザイン地図』(東海教育研究所)がある。