Column:Point Of View
2018年2月1日号
人生をリセットするタビ
経営学部観光ビジネス学科 高野誠二 准教授

大学卒業後の秋、私は久々の希望に満ちてアメリカのシカゴに着きました。全てをリセットして、やり直すため。

発端は大学に入って始まった片想いでした。直接話したことすらあまりなかったのだし、そんなに重く考えるなよと、友人たちは言いました。でも、目いっぱいの努力や精いっぱいの真心とか、そんなものと関係なく自分の人生が決まっていく現実に、生きていくのが怖くなりました。長らく暗いままだった私に、友人は最後に「どこか外国に移住して全部忘れたら?」

それだ! と、二度と戻らぬつもりでシカゴの大学院に入ったのでした。留学生寮の食堂で、最初の晩。前に座っていた女性と話が始まりました。聞くと日本人で、苗字は……ドキッ! あの片想いの子と同じだ。住んでいた場所は? 東京の、北区の、西ヶ原……って、ドキッ!それも同じ! 全部忘れるはずなのに……思わず「同級生でその辺りに住んでいた、同じ苗字の女の子がいて」と話すと。

「それ、私の妹じゃない?」

自分の手からスプーンが滑り落ちたスローモーションが、今でも目に浮かびます。地球の裏にまで逃げて来たのに、なぜ!?

神様は、いずこ?

ボロボロになって修士課程を終えると、リセットでまた白紙にしました。千ドルでボロ車を手に入れて荷物を詰め、部屋をたたんで旅に出ました。

トウモロコシ畑の地平線を追いかけ、星と寝ました。滔滔たるミシシッピ川も、五大湖の水面のかげろうも、答えは教えてくれない。延々と続く、ホームレスな日々でした。

その後ふと電話すると、母は入院直前とか言う。仕方ないといったん帰国すると、結局は再びアメリカに戻ることは果たせず、東京で大学院生になってしまいました。

どうにも行き詰まったらリセットボタンを押して、また、タビを始めればよい。でも絶対に触れたらダメなのは、近くにあって似たものに見える、終了ボタン。それは、別物。

タビでは大惨事にも遭う。でも、知る人もない予期せぬ絶景も待っている。それは、タビをあきらめない人だけが手にできる、特権。だから、タビはやめられない。やめては、いけない。

余談ですが、忘れてかき消そうと最初はもがいた、シカゴで出会ったお姉さん。今では私の大切な友人の一人です。

(筆者は毎号交代します)