Column:知の架け橋
2011年4月1日号
「食を語る」
海洋学部水産学科 荒木惠美子教授

「世界の食料の無駄」を考える
食品の保存方法をチェックしよう


このたびの東日本大震災で被害を受けられました皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。一日でも早い復旧と皆さまのご健康をお祈りいたします。

多くの生命、科学・技術、そして文化をも瞬時にねじ伏せた津波の衝撃は、生きている私たちに、これまでの暮らしを振り返り未来を考えるきっかけを与えてくれた。テレビのグルメ番組、健康食品の通販番組は一転、被災地のライフラインに関する生活情報番組に変わった。計画停電の実施は東日本に住む人々の食生活にも影響をもたらした。冷蔵庫や冷凍庫が使えないとき、どうしたらよいのかという記事がインターネットに掲載されている。氷の作り置きをする、扉の開閉を減らすなどのアドバイスがある。確かに一理あるが、被災地域では冷蔵庫はもちろん食料すらないのが現実である。

わが国で冷蔵庫が広く一般家庭に普及したのは1952年以降。それまで生鮮食品は毎日のように買い物に行かなければならなかったが、伝統的に保存性の良い加工食品も多く利用されていた。食品の保存性を損なう原因は主として微生物の増殖である。その存在が顕微鏡観察で分かったのは1673年、加熱によって微生物を殺菌できることが明らかになったのは1865年である。しかし、それ以前でも多くの食品は安全であった。それは経験によって得た知恵であり、結果として微生物を制御していたからである。

食品中の微生物を制御する方法として、まず_断調理または殺菌処理、⊃緤活性またはpHなどの調整、N簑△泙燭亙櫺后△修靴騰け染防止が挙げられる。食中毒予防の3原則、付けない()、増やさない(◆↓)、やっつける()である。たとえば“つくだに”は、冷蔵庫などなかった江戸時代、江戸の佃島で作られた魚介類の加工食品である。それが近年の低塩・低糖・低カロリー志向につれて“つくだに”に似た“そうざい”と化し、冷蔵庫に保管しなければならなくなった。

しかし包装された“そうざい”のなかには「直射日光を避け、常温または冷所で保存してください」と表示してあるものも多い。紙パックやペットボトルの清涼飲料水も同様である。それらは原材料の組成や殺菌工程によって、冷蔵庫に入れなくてよいように製造されている。ところがスーパーでは冷蔵ケースに入れられていることが多い。この際、流通関係者も消費者も表示の保存条件を確認し、無用に冷蔵庫に入れていないかチェックすべきであろう。今、世界では10億人が栄養不足といわれているが、先進国では加工食品は賞味期限(※)が過ぎたら、あるいは過ぎる前に廃棄している。もったいないのは原材料、製品のみならず、廃棄に伴うエネルギーである。地球温暖化は多くの人々に認識されるようになったが、根本的なエネルギー供給に限界があることに気づいていなかった。

今回の震災をきっかけに世界の食料の無駄についても考えてみたい。4月から新設された海洋学部水産学科食品科学専攻では、単に「食べモノ」だけでなく、「食べるコト」まで含めて研究の幅を広げる計画だ。21世紀を担う若い世代と議論していきたい。

 

あらき・えみこ 1950年神奈川県生まれ。東京農工大学農学部農芸化学科卒業。同大学院工学部博士課程生命工学専攻修了。博士(工学)。専門は分析化学など


※賞味期限と消費期限
▽賞味期限
おいしく食べることができる期限。期限を過ぎたら、すぐ食べられなくなるということではない。
▽消費期限
期限を過ぎたら腐敗、変敗、変質の可能性があるので食べないほうがよい。必要なものを購入しよう。