Column:知の架け橋
2018年6月1日号
知の架け橋 「QOL」を考える
文化社会学部広報メディア学科 河井孝仁 教授

シティプロモーションによって
自らがまちに存在する意味を考える


私の専門領域に「シティプロモーション」がある。一方で、医学・健康学で定義されるQOLについて語る資格はない。そこで、QOLを直訳した「生活の質」という言葉に触発されたことを、専門領域に引きつけて考える。

シティプロモーションについて、どんな印象を持っているだろうか。単に「まちを売り込む」ことと考えてはいないか。そこには、まちの「何を・誰に対して売り込み」、売り込むことで「何を達成するのか」という発想がない。

シティプロモーションでは、地域の魅力を基礎にしたブランド形成によって、当該地域で「どのような人が、どのように幸せになれるのか」を明らかにする。私はこのブランド形成過程を「地域魅力創造サイクル」と呼ぶ。多様なステークホルダーが連携し、魅力の発散・共有・編集・研磨という「共創エンジン」によって実現する過程である。シティプロモーションはこの地域魅力創造サイクルによって形成されたブランドを「メディア活用戦略モデル」を用いて売り込む。当該ブランドに共感する人々に対して、まちの物語を売り込むのだ。それによって、地域内外からの「まちにかかわりたい」という「地域参画総量」を獲得する。地域参画総量が豊富なまちはさまざまな活動が可能になる。概念としての地域参画総量はmGAP(修正地域参画総量指標)によって定量化される。

紙幅もあり、ここではこれらの用語の詳述はしないが、このシティプロモーションが「生活の質」という発想にどのようにかかわるのかは触れておきたい。それは、地域において人々は顧客にはとどまらない、主権者・参画者であるという「地域経営」の考え方に基づく。地域経営とは、地域にかかわる人々の持続的な幸せを実現するために、市民が主権者となり、行政・地域企業・NPOを代理人として、地域を的確に運営していくことを意味する。

あらためて問えば、人の幸せとはどのようなことだろうか。これに対し多くの「幸福度調査」がある。その多くは居住面積や保有自動車台数のような環境要因によって規定する。もとより、十分な環境が幸福につながることに異論はない。しかし、それに加えて、「自らの存在は意味があるのか」という問いへの「不断の回答可能性」が、幸福につながっているのではないか。私の調査によれば、自らの住むまちを短い言葉で語れる人ほど、自らは意味のある存在であると思っている。

シティプロモーションの取り組みでは、「あなたの関与によって、まちはこんなに魅力ある存在になっている」と伝え、実感してもらう。それによって「自らは意味のある存在である」と意識させる。地域の顧客にとどまらない「参画者・主権者としての生活の質」を上げる。私の専門とするシティプロモーションが、そうした可能性を持つことを期待している。

 
(図)シティプロモーションを実現する地域魅力創造サイクル

かわい・たかよし 1958年静岡県生まれ。名古屋大学法学部卒業、名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程満期退学。博士(情報科学)。専門は行政広報論・シティプロモーション。公共コミュニケーション学会会長理事、日本広報学会常任理事、社会情報学会理事。著書に『「失敗」からひも解くシティプロモーション』(第一法規・2017年)などがある