News:教育
2018年8月1日号
アンデスの失われた技術に挑む
文理融合の研究が始動

紀元前15世紀から15世紀まで、3000年超の長きにわたって中南米で栄えたアンデス文明。東海大学には、草創期からスペイン統治下の時代(17世紀ごろ)までの歴史を物語る土器や布製品などからなる「アンデスコレクション」が所蔵されている。その数は1690点と、世界的に見ても有数の規模を誇る。しかし、アンデスの人々は文字を残さなかったことから、多くの遺物は製法も用途もほとんど謎に包まれている。その解明を文理融合で目指す、文明研究所と工学部の研究室やマイクロ・ナノ研究開発センターの共同研究が今年度から始動している。

この共同研究は、文明研究所が進めている「東海大学所蔵文化財活用のための基盤整備」プロジェクト(研究代表者=文化社会学部・山花京子准教授)の一環で始まったもの。東海大が所蔵する「アンデスコレクション」と、古代エジプトのパピルス400点を含む約2万1000点の「古代エジプト及び中近東コレクション(AENET)」を保存・公開するとともに、国内外の研究者との研究協力を進めて、新たな価値の発見につなげる狙いだ。
 
すでにAENETについては、山花准教授と工学部の研究室による文理融合研究が進められており、長年製法が不明だったガラス質製品「ファイアンス」や高純度の硫黄製ビーズの製法が解明されたほか、合金の接合技術の再現を目指す研究なども展開されている。
 
山花准教授は、「ガラスの製法や金属の精製などに現在世界中で使われている技術の基礎は古代エジプトで生み出されたといわれている。しかし具体的な方法は、残された資料をもとに想像するしかなかった部分も多く、それが解明できたことは文理融合研究の大きな成果」と語る。

最先端の科学の目で 未解明の技術に挑む
今回始まった「アンデスコレクション」の共同研究は、理工系との連携を深める中で誕生した新たなプロジェクトだ。非破壊で表面の状態や内部構造を詳細に見ることができるイメージング研究センターのX線CTを使って土器を分析。製造の過程でつけられた指の痕や粘土の接着方法を観察し、製法を探っていく。工学部の各研究室と連携し、染料や材料の成分なども明らかにしていき、学術発表や展示会などを通して、その成果を発信していく計画だ。
 
山花准教授は、「アンデスを含むいわゆる新大陸では、エジプトなどの旧大陸とは全く別に文明が発展したといわれている。双方を比較することで、人類史の新たな視点が開けるとも期待している」と話す。
 
一方、マイクロ・ナノ研究開発センターの槌谷和義教授(工学部)は、「アンデスの技術に挑むこと自体がロマンにあふれている。同じ分析結果でも、理系と文系では情報の読み取り方が違ってくる。そこからこの研究がどのように広がっていくのか、今後の連携を大いに楽しみにしている」と期待を寄せている。
 
6月21、28日には、その第一弾としてレプリカと本物の遺物2点をX線CTで分析。これまでわかっていなかった内部構造や、製造過程でつけられた痕跡を観察した。 

また7月12、13日には、工学部の宮沢靖幸教授の研究室と協力し、教員と学生が兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」を訪問してAENETとアンデスコレクション所蔵の金属器の分析も行った。
 
山花准教授は、「今後も幅広い分野の研究者と連携して新たな知見を見いだすとともに、資料の保存・活用も進めたい」と話している。

アンデスコレクションを公開

8月27日から9月21日まで、湘南校舎17号館2階のネクサスホールでアンデスコレクションが公開される。コレクションの写真撮影に合わせて行われるもので、鳥の羽根でできた織物=右写真=や投石具などが展示・公開される。▽期間=8月27日〜31日、9月11日〜15日、17日〜21日(雨天中止)▽時間=午前10時〜午後5時(入退場自由、事前予約不)。問い合わせは文明研究所(0463-58-1211/代表)まで。

人類遺産の発信目指す 文明研究所 山本和重 所長
文明研究所は、人文学に重点を置き、文明を、その主体である人間と生活から探求することを目的に活動しています。その目的を実現するためのプロジェクトとして「超領域人文学構築に向けた基礎研究」と、「東海大学所蔵文化財の活用のための基盤整備」に重点を置いて研究を進めています。
 
エジプトとアンデスの資料を用いた今回のプロジェクトでは、今のところ遺物の製造技
術解明に主眼を置いています。もちろん土器や織物の製作年代確定、機能の検討も必要ですし、美術品としての価値もあります。将来的には国内外の研究者と連携しながら、より多様な視点からの研究を推進したいと考えています。そして研究の成果は、論文を発表するだけでなく、展示会などを通して積極的に一般の方々にも発信していく予定です。また資料群は、教育などにも活用したいと考えています。エジプトとアンデスの歴史を記録した両資料群は、人類全体にとっても貴重な文化財です。今後も各機関と連携し、その保存と活用を進めていきます。

【もう一つの話題】
イメージング研究センター ニコンの技術者が講義

湘南校舎のイメージング研究センターで7月5、6日に、ニコンインステック株式会社の技術者による「装置講習・中級編」が開かれた=写真。

同センターは、ニコンインステックと東海大学の産学連携包括協定に基づいて2016年に開設。機器の基本的な使い方を学ぶ講習を受ければ学内外を問わず誰もが利用できることなどから、年々利用者が増加している。今回の講習は、より効率的で高度な使い方を学びたいとの利用者の要望に応えて行われた。
 
講習にあたっては事前に参加者から質問事項を募集。当日は、X線CTや各種顕微鏡を実際に操作しながら、ニコンインステックの技術者が質問に答え参加者は熱心にメモをとり、より深い内容の質問をしながら講習を受けていた。
 
参加者からは、「専門の技術者に直接教わることで、機器への理解が深まった。こうした機会を提供してくれたことに感謝したい」「効率がよく正確な分析手法など、研究のスピードアップにつながると期待できるスキルを学ぶことができた」といった声が聞かれた。

 
(写真)6月21日に行われたX線CTを使った土器の分析。山花准教授(左端) は、「過去の論文を見ても、アンデスの土器をX線CTで解析した研究 はほとんどない。最先端の機器を有し、文理融合研究が可能な東海 大だからこそできる研究です」と語っている
【Key word】アンデスコレクション
正式名称は、「アンデス先史文明に関する遺物」。2004年と05年に出光美術館から東海
大学が購入した土器や織物、金属器、木製品など1690点で構成されている。3月にアンデス考古学研究の第一人者である大貫良夫東京大学名誉教授がコレクションを実見し、アンデス遺物として日本の大学および博物館で最大規模であると高く評価。TBS系の番組『大ナスカ最後の謎』(17年1月20日放映)などでも、当時の社会を解明する手がかりとして所蔵土器に記載された図像が紹介されている。