Column:Point Of View
2018年8月1日号
法医学という学問「死のデータを生に活かす」
医学部医学科基盤診療学系法医学 垣内康宏 講師

「法医学」と聞くと、テレビドラマの影響もあってか、「朝から晩まで解剖ばかりしている」というイメージを持たれる方が多いかと思います。確かに、一日中解剖をしている日も多いのですが、大学という研究機関に所属している以上、研究活動も行っています。法医学の世界では、法医遺伝学と法医中毒学、法医病理学の3分野が主要な研究分野となっています。
 
法医遺伝学とは、身元不明のご遺体の個人識別をするためのDNA型検査や、民事裁判における親子鑑定といった、法的問題に関連する遺伝情報についての研究分野を指します。刑事裁判におけるDNA型鑑定などをイメージしていただければわかりやすいでしょうか。
 
法医中毒学は、毒物によって生じた障害や死亡のメカニズムを解明する研究分野です。1995年に発生した地下鉄サリン事件、なかなか根絶されない危険ドラッグといった、犯罪などに関連する違法薬毒物の作用機序の解明を中心に研究が行われています。
 
法医病理学とは、突然死などのように法医解剖の対象となる疾病等の原因を解明する研究分野です。たとえば、乳幼児突然死症候群(Sudden infant death syndrome 通称「SIDS」)は、主に1歳未満の乳幼児が、事故や重篤な持病などがないにもかかわらず、突然亡くなってしまうというものです。私たちの研究室でも、SIDSを研究テーマの一つにしています。
 
さて、それでは私自身の研究テーマはというと、上記の3分野のいずれでもありません。あえて名づけるとすれば、「法医公衆衛生学」という分野になるでしょうか。 

日々の法医解剖では、殺人などの事件性のあるご遺体よりも、いわゆる「孤独死」など、死因不明となったご遺体を扱うケースのほうが多いのが現状です。こうした、孤独死などで亡くなられた方々の死因について得られたデータや知見を、生きている独居高齢者の方々の孤独死予防に活かすため、地域の自治体にフィードバックする、そんな研究を私はしています。
 
多くの医学部の解剖室には、「Mortui vivos docent(死者が生者に教える)」というラテン語の看板が掲げられています。亡くなった方々から学んだ知見を、生きている方々の健康寿命延伸に活かす――そうした、ラテン語の教えに沿った研究を、今後も続けていきたいと考えています。

(筆者は毎号交代します)