特集:教育の現場から
2018年10月1日号
研究成果を通じて大学の魅力を語る
【特別対談】
「宇宙航空研究開発機構(JAXA)での月の研究の取り組み」

9月15日に湘南校舎で開かれた東海大学神奈川県後援会総会で、特別対談「宇宙航空研究開発機構(JAXA)での月の研究の取り組み〜本学大学院生の世界に誇れる研究成果をてみる本学の魅力とは〜」が実施された。約1000人の同後援会員を前に、昨年10月、月に巨大な地下空洞が存在することを証明=左欄参照=して注目を集めた大学院工学研究科2年の郭哲也さんと山田清志学長が登壇。地道な研究による大きな成果を通じて語り合った。



郭さん「日本の宇宙業界を活発化したい」
山田学長「大学院進学で“社会で闘う力”を」


山田学長 神奈川県後援会の総会に先立ち、郭さんの研究成果について紹介したいと思い、今回の対談を企画しました。この発見は昨年の10月に発表されました。私の専門分野は法律ですが、説明を聞いて「これはすごい研究だ」と驚きました。本学ではさまざまな分野で学生が活躍しています。世界的な発見をした学生がいるという話題を、多くの方たちに知っていただきたいと考えていたところ、この機会にようやく実現できました。まず伺いたいのは、郭さんは工学部航空宇宙学科入学前に、宇宙に対してどのような興味を持っていたのでしょうか?

郭さん 小学校1年生のときに、姉が参加していたことから公益財団法人日本宇宙少年団横浜分団に入りました。そこに所属するJAXAの職員や社会人の方たちが宇宙について教えてくれて、初めて“宇宙”に触れたことが興味を深めるきっかけになりました。

山田学長 早い時期に目標を見つけられると、その後の人生に影響を与えるという一つの例に挙げられると思います。そのまま興味を持って東海大に進学したのですか?

郭さん 中学生になっても宇宙少年団には所属していたのですが、部活動に時間を取られて、活動にはあまり参加できませんでした。その後、大学受験となったときに、どのような道に進むか考えたところ、「JAXAで研究してみたい」という気持ちから、各大学の航空宇宙学科を調べました。

山田学長 その中で高校の先生が本学の航空宇宙学科を推薦してくれたのですか?

郭さん そうですね。

山田学長 ぜひその先生を紹介してください(笑)。ところで、航空宇宙学科では数学は重要ですか?

郭さん 数学については、基礎がわかっていれば大丈夫です。航空宇宙の分野では、熱力学や機械工学など多様な分野を用いて研究をします。低学年で満遍なく基礎を学んで、自分の研究へと選択肢が分かれていくので、数学が苦手だから無理という学科ではありません。

山田学長 私が大学で法学部に行った理由は、中学で数学に挫折したからです(笑)。

郭さん 僕も数学は好きではなく、物理のほうが興味を引かれますね。

山田学長 世界の教育界では、「文系でも理系でも数学を理解したものが大学に進むべき」であるというSTEM教育が提唱されています。Sはサイエンス、Tはテクノロジー、Eはエンジニアリング、Mはマスマティックスですね。私のような学生をつくらないようにすることも、私の仕事かなと思います。さて、宇宙の研究というとロマンがあるように感じますが、郭さんはいかがですか?

郭さん 学部4年時から月の研究をしていますが、調べていると身近な存在になってくるんですね。一方で、「地球に似た惑星が遠くにある」というような自分の研究とは異なる話題を聞いてもワクワクしてきます。

山田学長 ロマンあふれる研究に取り組んだ大学院修了後は、どのような道に進むのでしょう?

郭さん 衛星観測データを解析する会社に就職します。その仕事を通じて宇宙業界を活発化させたいと考えています。そのために、民間などで宇宙にかかわりのなかった方々に解析した観測データを通じて「宇宙をビジネスとして利用」してもらい、お互いのメリットになるようなものを考えていきたいですね。

山田学長 まさに初志貫徹ですね。日本の多くの企業、特に理系人材を採用する企業では修士課程を終えた学生を選ぶ傾向があります。科学技術が発達した現代の企業では、修士課程を終えていないと戦力として考えにくいという現状もあるのでしょう。本学でも大学院進学を支援する仕組みを整え、多くの学生に社会で闘うための力を身につけてもらいたいと考えています。最後に、今日お集まりのご父母の皆さんにメッセージがあれば聞かせていただけますか。

郭さん 私からはなかなか言いにくいのですが……、高校生までは両親から「勉強しなさい」とよく言われていたのですが、大学入学後は全く言われなくなりました。急に何も言われなくなったことで、私は大学1年生の夏に、時間を無駄にしてしまったのです。このままではダメだと、自分から興味のあることに積極的に挑戦しました。他大学生とのプロジェクトに携わったり、さまざまな方とかかわったりすることで視野を広げ、今回のような研究にも取り組むことができました。自ら興味を持ち、踏み出すことが重要です。結論としては、ご父母の皆さまには、大学生のお子さんにはあまり口出しせず、のびのびとさせてほしいと思います(笑)。

山田学長 短い時間ですが以上で終わります。今日はありがとうございました。

郭さん ありがとうございました。

月に巨大な空洞を確認 将来は月面基地にも

郭さんらは、月を周回する探査衛星「かぐや」から照射した電波レーダーの反射波を分析し、月内部に巨大な空洞が存在することを証明した。

これまで、月の「マリウス丘」と呼ばれる地点に通常のクレーターとは異なる直径・深さともに約50メートルの縦たてあな孔が見つかっていた。郭さんらはこの縦孔について追究。これまでに見つかっていた縦孔付近の地表から200メートルほど下に、巨大な地下空間を発見した=上画像参照・郭さん提供。

今回の研究は、「かぐや」に搭載された電波レーダーを用いた新たな成果であることや、巨大な空洞が月での人類活動を拡大するための月面基地建設に向けた候補地にもなることから、世界的に注目を集めている。

郭さんは、「今後は全球面にわたって探索するとともに、これまで得られたデータをもとに地下空洞の状態についても究明していきたい」と意欲を見せている。
 
(写真中)山田学長は「世界的な発見をした学生がいるという話題を多くの方たちに知ってもらいたい」と話した
(写真下)「大学生活では自分から踏み出さなければならない」と語る郭さん