Column:Point Of View
2018年11月1日号
法医学という進路「法医学者は絶滅危惧種?」
医学部医学科基盤診療学系法医学 垣内康宏 講師

「法医学」は、テレビドラマや小説の影響もあって、世間の皆さんに比較的よく知られている分野であるように思います。私は法医学の世界に入る前は病理医をしていたのですが、当時、「病理学が専門です」と一般の方々に自己紹介をしてもなかなか仕事の内容を理解してもらえなかったことを考えると、とても対照的に感じます。

ちなみに病理学とは、病気の原因や発生機序の解明を目的とした研究分野です。実は欧米をはじめとする世界の多くの国々では、法医学は病理学の一分野ということになっています。

さて、そのように世間の皆さんには比較的なじみのある法医学ですが、この分野を専門とする医師は全国でどのくらいいると思いますか?

厚生労働省の統計によると、2016年末の時点で、日本の医師数は約32万人。診療科別にみると、内科が約6万人と最多で、続いて整形外科が約2万人、3位が小児科で約1万7000人だそうです。先ほど挙げた病理医は、やや少なくなるものの約2000人です。

では法医学はというと、実は厚生労働省のデータでは掲載されていません。代わりに、日本法医学会が学会誌で発表している「法医認定医」数を挙げますと、17年4月現在で約130人。医師全体の約0.04%です。

現在、医学部・医科大学は全国に約80校あるのですが、1大学に法医学の医師は約1.6人しかいないことになります。実際に、地方の医学部では教授1人しか法医学の医師がおらず、1人でその県の解剖を365日、担っていることがほとんどです。

法医学が、世間の皆さんの認知度に反して、医学の世界でここまで人気がないのはさまざまな理由があると思います。「医師になった以上、やはり生きている人の命を救いたい」。そう言って臨床の世界に戻っていった先輩たちも数多くいました。また、365日、警察の要請に応じるべく待機しなければならないという毎日に疲れてしまったという方もいらっしゃいました。

私も、そのような気持ちを一度も抱いたことがない、といえばうそになります。それでも、法医学には臨床の世界に負けないくらいのやりがいを感じることが多々あり、それが日々の自分の支えになっています。

(筆者は毎号交代します)