特集:研究室おじゃまします!
2019年1月1日号
危機に直面する技術大国
復活のカギを探る
工学部機械工学科 村山省己 教授

製造業分野で世界トップレベルの技術力を持ち、「ものづくり大国」とも言われる日本。その一方で、国民一人あたりの労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中20位(日本生産性本部『労働生産性の国際比較』2018年度版)と低いのが課題だ。そうした現状を打破しようと、製造業に携わる企業が模索しているのが「工場の自動化」。その第一人者である工学部機械工学科の村山省己教授に、技術大国復活策を聞いた。

長年、合理的な工場ラインの設計と開発に携わってきた村山教授。その経験から、現在は国内を飛び回り、中小企業から大企業までさまざまな生産現場の改善を支援している。その中で感じているのは、「自動化すべき仕事も人手に頼っていることが多い」ということ。ごく一部のトップメーカーを除き、製造業の95%を担う中小企業では非効率な工場が多いという。
 
「海外では、製品の設計・開発段階から合理的に生産することを考えるのですが、日本ではその意識が低い。自動化とあわせて生産ラインの非効率性が大きな課題です」と指摘する。
 
だが生産現場の効率化といっても、一朝一夕で実現できるわけではない。そこで村山教授が提唱しているのが、図の「工場設備の自動化レベル」だ。レベル0から順に段階を追って自動化することで、最終的に全自動生産ラインを実現できる仕組みとなっている。
 
「第一歩は、現在の仕事の流れを点検して省力化を進める改善を行うこと。それだけでも、多くの工場で生産効率が2倍程度上がる。そのうえで、製品の設計段階から自動化を考えた生産ラインの開発に取り組めば、国内の人手不足を解消できるほどの効率化が実現できる」と話す。

最終的には狄〞が大切 マネジメント人財を育成

もう一つ日本に欠けているのが、自動化を担う人財だ。「工場や企業の全体を見渡してマネジメントできる人財を育てる環境がないことも、諸外国から大きく遅れている。業務効率を優先した縦割り社会の弊害でもあるが、このままでは組織力で上回る海外の企業との差は開く一方です」
 
村山教授は国内各地を回るかたわら、年間50回をこえる講習会で企業の若手技術者や経営者に自動化のノウハウを教えている。
 
さらに、学生たちとともに、工場の生産性を高める工作機械も開発している。学生自身が設計や改良を担うことで、機械の設計から製品の製作までを見通して工作機械を設計する力を養う。 

「機械工学科の学生は将来、技術系のエンジニアとして活躍することを嘱望されています。研究を通して、そのリーダーとなるための土台を身につけてほしいと考えています」

大学だからできる 未来の工作機械を提案
また研究室では、一つの機械で材料の加工から仕上げまでを行える超小型の複合加工機械を開発。直線加工と曲線加工を複合化することで現在使われている機械に比べて短時間で高精度な加工面ができる加工工法を実現した。また、「ねじのゆるみ」による事故や災害をなくすために超音波振動で検査するシステムの開発も進めている。
 
「一つの機械で複数の作業ができれば加工時間も短くなり、コストの大幅な削減になります。また、検査も自動化することで、さらなる省力化にもつながります。検査の自動化は、品質の安定化と継続した生産に不可欠です」と話す。
 
「企業とも話し合い、実用化に向けたステップも進みつつあります。利益に直結する製品の開発が必要な企業と違い、大学では将来を見据えた機械の開発ができる。未来を担う人財を育成し、技術を提案する。それこそが大学の大切な役割だと感じています」



Focus
高い目線と愚直な努力を




東海大学を卒業後、機械メーカーのアマダに就職。全自動加工ラインや大型溶接ロボットの開発に携わり、日立オートモティブシステムズの投資計画部門トップも務めてきた。そうした中で感じてきたのは、世界のトップを知り、挑戦し続けることの大切さだ。
 
「トップがわかれば、あとはそこからの引き算で工場のレベルがわかるようになる。さらに、技術を高めていこうという意欲をもって愚直に自己研鑽を続けることで、広い視野をもって課題を処理する力がついてくる」と話す。
 
「机上で考えるだけでなく、行動すること」をモットーとしてきたが、その分失敗もしてきたと振り返る。「失敗だけでも本が書けるほど(笑)。ただ、失敗すれば次回はそうならないよう工夫する力もつく。先人たちがそれを続けてきたから、日本は技術大国になれたのです。未来を担う学生たちが授業や研究活動を通じて、その土台となる力を身につけられるようにしていきたい」

 
(図表)村山教授が提唱する工場設備自動化レベルの定義。部品加工から組み立てまでの全工程の自動化が実現できれば、作業者の習熟度に関係なく、安定的に高い品の商品が生産できるようになる。また自動化が実現すれば海外での生産でも高品質・安定供給が実現できるという

(写真上)村山教授が学生たちと開発している複合工作機械「卓上型の超小型NC機」
(写真中)超音波でねじのゆるみを検査できるシステム
(写真下)研究室の学生たちと村山教授(左から3人目)

むらやま・せいき 1953年山口県生まれ。東海大学工学部生産機械工学科卒業後、76年に螢▲泪世暴⊃Α83年に厚木自動車部品(現・日立オートモティブシステムズ株式会社)に入社。工作機械や自動車部品生産設備の設計開発、自動化設備設計などに携わる。専門は、設計工学、自動化システム、投資計画など。