Column:知の架け橋
2019年2月1日号
「QOL」を考える
情報通信学部通信ネットワーク工学科 藤野 巖 教授

QOLとビッグデータ
技術革新が生む可能性


QOL(Quality of Life)とは、生活または人生の質を表す言葉である。振り返ってみれば、18世紀半ばの産業革命および20世紀の情報革命は、現代社会における人々のQOLの向上に大きく貢献した。今、21 世紀の私たちの社会は、ビッグデータという新たな革命の真っ只中にある。これまでの産業革命および情報革命と同様、このビッグデータ革命にも、人々のQOLのさらなる向上をもたらす大きな力が潜んでいる。

従来は、データが主として紙に記録されていたため、データの生産、保管および運搬能力に大きな制約があった。しかし、技術革新によって、半導体などの記録素子の価格は、60年で10の15乗分の1まで下がり、大容量データが簡単に保存できるようになった。一方、コンピューターやインターネットの普及のおかげで、情報発信のハードルが大幅に低くなり、誰もが簡単に情報発信できる時代になった。
 

今ではテキストのみならず、音声、画像および映像データが、SNSを通じて瞬く間に全世界に拡散されている。しかも、人手により直接作成されたデータだけでなく、位置、速度、温度など各種センサーからも、また電車、飛行機、船の自動船舶識別装置といった機器からも、時々刻々大量のデータが自動発信されている。
 
これまでに蓄積された膨大なデータの自動処理と利用に関して、データマイニング、機械学習と人工知能など一連の技術革新が発明・開発されている。これらは世の中を大きく変える可能性を持っており、ビッグデータ革命と呼ぶにふさわしい。
 
ビッグデータ社会では、個人識別データによって、個人の学習履歴、購買履歴、医療履歴、移動履歴をすべて紐付けることができ、人生の全期間にわたって記録できるようになる。これは何を意味するだろうか。
 
一例として、新しい服を作ることについて考えてみる。まずはあなたの年齢、性別と身体サイズデータにアクセスすることで、ぴったりサイズの服を仕立ててくれる。それのみならず、あなたの購買履歴からあなたの好みを推測して、現在のトレンドに合わせたものを提案してくれる。さらに、あなたのスケジュールデータにある入学式、就職面接、結婚式などのイベント予定を確認し、それに似合うスタイルも提案してくれる。あなたに関する情報がたくさん集まれば集まるほど、あなたの気持ちを推し測ってよりよいサービスを提供することが可能となる。

しかし、このような便利な事例と裏腹に、フィッシングや個人情報の大量漏えい、仮想通貨を盗み取るような、データ社会に特有の犯罪も生まれる。
 
この状況を踏まえて考えると、ビッグデータ利用の仕組みをつくるにあたって、人々のデータ保護意識の形成とデータ・セキュリティー体制の確立は不可欠の前提となる。それらが担保されれば、ビッグデータ革命によって、人々のQOLは格段に向上するであろう。

 
(写真)ゼミナールではビッグデータから潜在的な情報を抽出する方法などについて研究している

ふじの・いわお 1991年東海大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は情報検索、データマイニング、機械学習。94年短期大学部電気通信工学科講師、後に情報・ネットワーク学科助教授、教授。2008年から現職。また、03年国立情報学研究所共同研究員。04年イギリス・サウサンプトン大学客員教授。16年フランス海軍アカデミー招聘研究員。