特集:研究室おじゃまします!
2019年4月1日号
デザイナーが仕事に込める思いとは
小さなことから“具体的な機会”を
国際文化学部デザイン文化学科 笹川寛司 准教授

文房具でも衣服でも、家電製品や家具でも、何でも、私たちの身の回りにあるモノはみな「デザイン」されている。そこには、使いやすさやカッコよさだったり、はたまた生活を楽しくしてくれるものだったりと、さまざまな要素が考慮されている。では、デザイナーはどのような思いを込めているのだろうか? プロダクトデザインが専門で、デザイナーとしても活躍する国際文化学部デザイン文化学科の笹川寛司准教授の研究室を訪ねた。

「デザインとは何か?という定義は非常に難しい。時代による変化にも目を向けながら、『デザインによってできること』を毎日考えていかなくてはなりません」
 
笹川准教授がデザインを手掛ける作品は、ブックスタンドや文房具、照明器具などいわゆる“小物”や“雑貨”が多い。

「スーパーカーやパーティードレスをデザインするのとはちょっと違います。日常生活の中での問題を解決するものであったり、生活によい変化をもたらすものであったりと、小さなことかもしれないけれど、使う人に“具体的な機会”を提供するデザインが理想です」我々の身の回りのモノが、人々にどのように求められているのか、どのような形状であるべきなのか考え、可能性を探る―五感を総動員して答えを導き出すことが「デザイン」の本質と語る笹川准教授。

「ちょっとした工夫で生活に変化を与えるデザインを実現したいと取り組んでいます。それが“デザインで何ができるのか”という問いへの答えかな、と」

罫線が消えるノート!? “当たり前”を疑う

教育研究の傍ら、多くのデザインコンペにも作品を提案。今年1月には文房具メーカーのコクヨ蠅主催するデザインコンペティション「コクヨデザインアワード2018」でファイナリストに選出された。
 
使う人の視点で優れたデザインを広くユーザーから集めて、商品化を目指すコンペで、今回は「BEYOND BOUNDARIES」がテーマ。世界中から国や言語、文化などの“境界を越える”ためのアイデアが募集された。
 
笹川准教授は、キャンパスノートを題材に、特殊なインクで印刷されたノートの罫線が数年経つと徐々に消えていくという作品「罫線フェードアウト」を提案。ノートを綴じる背クロス部分に「罫線が消える目安 2022年」と印刷するデザインを考案した。
 
「“境界を越える”というテーマについて考えたときに、教員は板書をするときにいちいち罫線は引かない。なのに、学生たちはノートの罫線に沿って筆記していることが頭に浮かびました。『これは使い方を押しつけられているのでは?』と、当たり前を疑うところからアイデアを膨らませていきました」と振り返る。
 
学生や隣接する付属札幌高校の生徒からノートを借りてリサーチした結果、「罫線は文字を書くときにはガイドになるけれど、見返すときには不要。むしろないほうが見やすい」と考えた笹川准教授。
 
「『意図的に消えるインク』というものはあまり研究されていないようですが、専門家にも相談して実現可能な技術とわかり、作品としてまとめました」
 
一般的なノートを使う際は、「何年後にはこうなっている」と時間の経過を意識することは少ないが、それこそが狙いと語る。
 
「この作品のポイントは時間の経過を積極的に取り込んでいること。境界は時間とともに変化していくべきであるし、それはよりよい未来につながる前向きなイメージでもある。このノートを使う人に、小さなことからでもそんな気持ちになってもらえれば」




Focus
挑戦する姿で伝える





コクヨデザインアワードでは04年に、宛名を書く際、白紙に向かって緊張しないようあらかじめ模様を印刷したハガキ「Relax」で審査員特別賞を受賞している笹川准教授。「教員の立場でも、コンペに参加する姿を学生に見せることで挑戦することの大切さを感じてもらえればと思い、14年ぶりの応募を決意した」と話す。
 
大学卒業後、イタリア・ミラノへ渡りデザイナーとしてのキャリアを歩み始めた。「周囲からは“いきなりイタリアに行くなんて無茶”と止められました」と笑うが、学生時代の恩師である田野雅三教授(北海道東海大学芸術工学部・故人)の姿に触れ、決意を固めた。「田野先生はプロダクトデザイナーとして社会で活躍されていましたが、いつもぶすっとして近寄りがたい雰囲気で、昔の職人さんそのもの。でも、仕事に向き合うその真摯な視線に『プロ』のあり方を教えてもらい、自分もチャンスをつかみたいと考えました」
 
自らも教える側に回った今、デザイナーを志す学生たちには「何かに向かって努力することは本当に大変だけれど、成し遂げたその先には喜びや充実感が待っている」と伝えている。
 
「デザイナーの仕事は、必死で考え、アイデアを絞り出さなくてはいけません。さらにコンペに出展しても評価されないことも多く、つらいものです。でも、苦労があるから喜べる。それは体験からしか学べないものなのかもしれません。だからこそ、学生たちには在学中から積極的に、そういった機会に飛び込んでもらいたいですね」

 
(写真上)笹川准教授の作品「罫線フェードアウト」。コクヨの人気商品である「キャンパスノート」を使い、ノートの罫線が数年経つと徐々に消えていくというアイデアを提案。背クロスに「罫線が消える目安 2022年」と印刷されている。右は学生や札幌高生から集めたノート。これを基に「アイデアを膨らませた」と笹川准教授

ささがわ・ひろし 1973年新潟県生まれ。北海道東海大学芸術工学部を96年度に卒業後、ミラノのイスティテュート・エウロペオ・ディ・デザインを経て、建築デザイン設計事務所ストゥーディオ・デ・ポンテ・エ・ガエタ勤務。2003年に帰国し、04年に北東大芸術工学部に着任。「第10回ユポ・デザイン大賞」グランプリなど受賞多数。