Column:知の架け橋
2020年2月1日号
「AI」を考える
医学部医学科基礎医学系生体防御学 穂積勝人 教授

膨大な情報から本質を見いだす 
AI時代における基礎教育のあり方とは


最初にお断りしておきたいのですが、私は医学部の基礎系教員で免疫学を専攻しており、本論考のテーマである「Artificial Intelligence (AI)」について専門的な知識を有してはいません。そんな私が本論考への寄稿依頼を引き受けたきっかけは、私が今年度に医学部1年生の指導教員となり、4月に行われた新入生研修会・討論会でのテーマを「AI時代における医師の素養とは?」として、新入生の議論を促したことでした。その際、参考文献として、2016年に朝日新聞に掲載された「AIと生きる・推論力磨いて使いこなせ」(新井紀子・国立情報学研究所教授)を学生に読んでもらいました。

新井先生は、ロボットが東大合格を目指す『東ロボくん』プロジェクトを主導し、その後もAIや子どもの読解力について積極的に発言されており、ご存じの読者も多いと思います。その中で先生は、AIによる課題解決はあくまでも既存のデータをもとに“統計的に妥当そうな答え”を出しているにすぎず、我々は“自らの実体験に基づいて想像力を働かせ”“論理的な推論力”を駆使して課題解決にあたることが肝要と説いています。

最近の彼女の活動は、そうした“AI的”な、つまり文意を理解せずにキーワードだけを追いかけるような文章の読み方を少なくない学生が行っていることに警鐘を鳴らすために実施されているようです。我々大学教員も、講義を通じて学生に接し、同様な感覚を持つことが多くなってきました。特に論理的に物事を捉えようとする姿勢が弱くなっていると実感します。

新入生研修会では、本学「建学の歌」を全員で歌うことが恒例ですが、「思想と科学と技術とに いそしむ健児ここにあり」の歌詞に、今の学生諸君に真剣に取り組んでいただきたい学びの中身が濃縮されているように感じました。大学時代に自ら考え、迷い、悩むことの過程からしか、本当の修学は完遂しないと思います。その実体験の中で練られた貴重な感性が、人として深みを熟成させることにつながるものと確信しています。

たくさんの出会いを経験し、また多くの文章に触れることで人間力を育んでほしいと願って、研修会のまとめとさせていただきました。さまざまな技術革新を伴うAI時代に、それを使いこなす医師として重要な素養は、そうした感性を介した患者さんへの「共感力」だと思います。それなしに、患者さんからの信頼を得ることは難しいでしょう。では、大学での基礎教育は、そのために何をするべきなのでしょうか。

近年、生物学の分野では分子的理解が高度に発展し、情報量が膨大に増加しました。よって、考えの前提として与えられる情報が過大となり、生物学の本質的な視点、すなわち生物が「生きていること」における意義、についての理解が希薄になっているように感じます。これはおそらく進歩の大きな他分野についても同様の状況だろうと推察します。

そこで、大学教育の中で、膨大な情報の中から物事の本質を見いだすための方策を、自らどのように確立していくのか、それを助けるような課題設定が重要なのだろうと考えます。「言うは易く行うは難し」の試みではありますが、AI時代を迎えた大学教員が考えるべき、もっとも重要な課題だと思っています。

 

ほづみ・かつと 1965年横浜市生まれ。92年東北大学大学院薬学研究科博士課程修了。博士(薬学)。同年、東海大学医学部助手。98年から2001年、英国王立がん研究基金(ICRF、現FrancisCrick Inst.)研究所博士研究員。17年より現職。専門は免疫学。