Column:知の架け橋
2011年5月1日号
「食を語る」
農学部応用植物科学科 片野學教授
豊かな食事で生活改善
大学生活に玄米とみそ汁を


2000年9月から3カ月間、タイ王国、モンクット王工科大学の応用昆虫学者、ラタナ博士が協定校交換教員として農学部の作物学研究室に滞在した。タイでは玄米を食べていたと言うのである。そこで、玄米が炊ける炊飯器を購入して昼食を共にすることにした。博士の帰国後も、一人で玄米食を続けることにした。

05年3月、入学以来、活発に行動していた学生が3年次前半から、うつ病のために授業に出られなくなり、単位取得もままならず、このままでは卒業もおぼつかなくなったために退学したいとの連絡があった。食生活などから、彼女の不調の要因が「低血糖症」に違いないと判断した。低血糖なら玄米食で治るはずだということになった。

退学届けをとりあえず撤回して、私と一緒に玄米を食べることになった。2人で食事準備をするようになり、内容も日々、ゴージャスになっていった。1学年下の専攻生の励ましもあって、4月からは授業に出られるようになった。夏には卒研着手条件の単位取得も叶い、秋学期からは卒研も始めることができた。

学部生の昼食はといえば、具なしインスタントラーメンやカップ麺など、日野厚医学博士が1982年に出版した書名『あなたは病気を食べている』を地で行った内容である。そこで、2人分作るのも10人分作るのも同じということで、06年の4月からは学部生と院生、10人を加えてみんなで調理することになった。食材はすべて私が購入することにし、学生諸君の出費はゼロとした。調理にも磨きがかかり、玄米に雑穀・豆類を加えた十穀・十五穀飯、保存食やお惣菜、糠漬け、具沢山みそ汁をはじめ、野菜や海藻、きのこ類たっぷりのヘルシーメニューである。

玄米を食べてみたいという学生の分まで作ろうということになり、多いときには20人分を超えることもある。研究室の16アールの水田で実った無農薬・無肥料栽培という超高級な玄米をおいしくいただいている。この5年間、学生諸君は私の、玄米食の人体実験の対象でもあった。冷え性、便秘や吹き出物、イライラに困っていた学生や、スタミナ不足などもおおかた、解消されているようだ。

我々の細胞の原料は、水と食べ物であるという厳粛な事実を教えられてきた。東日本大震災と原発破壊による放射能汚染という事態の深刻さに対して、かつて、長崎原爆投下の爆心地から1・8キロの病院に勤務していた秋月辰一郎博士と従業員には原爆症が出なかった。マクロビオティック創始者・桜沢如一から玄米食による食養を学んだ秋月博士は、「その原因を“わかめのみそ汁”であったと私は確信している」と著書『体質と食物 健康への道』の中で記している。現代の大学生にはほとんど無縁の世界である玄米とみそ汁を、取り戻してみてはいかがですか。

 

かたの・まなぶ 1948年東京都生まれ。東京大学農学部農業生物学科卒業。同大学院農学系研究科農業生物学博士課程修了。農学博士。専門は作物学など。



(写真上)学生たちと調理をして食卓を囲む
(写真下)盛り沢山でもヘルシーメニュー