Column:知の架け橋
2011年6月1日号
「食を語る」
教養学部人間環境学科自然環境課程 室田憲一 教授

食と環境について考える
食べることは「環境を破壊する」こと?


我々は日々動植物の遺体を食べることで生命を維持している。食べることをやめると多くの場合は生きてはいけない。現在国内では至る所に食料が氾濫しており、お金さえあればいつでもほぼ十分なものを食べることができる。しかしながらその背後にはわが国の低い食料自給率に伴うさまざまな問題が潜在している。

わが国の食料自給率はカロリーベースで約40%という、先進諸国の中で極めて低い値を示している。わが国で消費する食料を生産するためには、現在の国内耕地面積の約3・5倍もの面積が必要になるが、その耕地を海外に依存している。そのことにより、農地拡大のための開墾、肥料や農薬の過剰施用などによる生産地環境に及ぼす影響、食料輸送に伴って排出される二酸化炭素などのフードマイレージの問題、淡水資源の枯渇が叫ばれている中で輸入農作物の栽培にかかわる淡水を大量に輸入するという概念であるバーチャルウォーター、現地の主食穀物をわが国の飼料用作物などとして輸入することが現地での食料不足の一因になる飢餓輸出など、さまざまな問題が指摘されている。

すなわち、我々が「食べる」ことが世界の人々の命を脅かし、現地や地球全体の環境に悪い影響を及ぼしているといえる。我々がそのことを意識しない(できない)のはなぜだろうか? 栄養学的知識や食事の作法などのいわゆる「食育」は発展しているが、食と環境の教育はいまだ十分に行われていないことも一因かもしれない。しかし、もっと大きな原因は、前述のさまざまな問題以前に、「食料」が「商品」として見られ、我々の生活からかけ離れた「他人事(ひとごと)」になっていることではないかと考えた。

そこで、私は10年ほど前から学生と一緒に秦野市の名古木(ながぬき)というところで、約7アールの休耕地を利用した稲作を行っている。この休耕地は神奈川県では珍しい棚田で、環境省の里地里山再生モデル事業実施地区の一部にも指定され、いくつかのNPOなどが里地里山保全活動を実践している。今年は40年間休耕地になっていた棚田を復元し、耕地面積拡大を目論んでいる。無農薬・減化成肥料で、クワや鎌を用いて極力農機具を使用しない、いわゆる「お百姓さん」の作業をしている。作業は厳しく、特にクワを用いた田起こしや夏場の除草は過酷な作業となる。もちろんアルバイト料は出ないので、学生からの文句がいっぱい出る。こちらの思惑通りで、不満があるといろいろと考え始める。「食料」が「商品」や「他人事」ではなくなってくる。

学生への調査を行ったところ、この実習後に「食」への考え方に変化が見られた「食」は人間にかかわるさまざまな問題を考える最適の題材であると確信している。その場だけでなく、今後も引き続き命の源である「食」に関心を持ち続けてもらいたいと切に願うところである。

 

むろた・けんいち 1963年京都市生まれ。東京農業大学農学部農芸化学科卒業。同大学院農学研究科農芸化学専攻博士後期課程修了。博士(農芸化学)。専門は植物生理学、食環境学など。


(写真)学生と稲作をしている秦野市・名古木の棚田