特集:キャンパス展望
2010年12月1日号
覚えるということ、考えるということ
工学部応用化学科 秋山泰伸准教授

最近のスマートフォン(携帯電話)は高性能である。ネットサーフィンはできるわ、音楽は聴けるわ、GPS機能もついているわ。まさにポケットに入るコンピュータで、電話機能はおまけ(?)という感じである。また、1000円から2000円で、4ギガバイト程度の容量のマイクロSDカードを手に入れられる。これを携帯電話に挿せばメモリ容量も簡単に拡張でき、さまざまなコンテンツも楽しめるらしい。4ギガバイトというと、700メガバイトの容量があるCD6枚分、DVDだと1枚分弱のコンテンツを記憶できる。たいしたことないと思うかもしれないが、実は結構すごい量である。

著作権の切れた作品や配布の許可を受けた作品をインターネット上で公開している「青空文庫」を利用すれば芥川龍之介や太宰治、そのほか、教科書でお世話になった有名な作家の作品が無料で手に入る。2009年版で7000弱の作品が公開されているようだが、データ量は全部で220メガバイト程度、CD換算で3分の1枚分にしかならない。7000作品でCDの3分の1だとすると、4ギガバイトのマイクロSDには7000×18で約13万作品ぐらいの「走れメロス」や「我輩は猫である」を入れられる。携帯電話でもこのぐらいはお茶の子さいさいで牾个┐蕕譴〞が、パソコンはさらにすごい。最近では、1テラバイトのハードディスクを積んだものも安価に手に入る。1テラバイトは4ギガバイトの250倍、とすると、13万×250で3250万もの作品を牾个┐蕕譴〞。人間80年生きても約3万日が寿命である。常人では一生かかっても読める量ではない。

また、皆さんご存じだと思うが、携帯電話もパソコンも人間の記憶と比較にならないぐらい、すぐに、正確に牾个〞データを取り出すことができる。こう考えると、人間はすでに携帯電話より記憶するという能力では劣っているのかもしれない(異論は多々あると思われるが)。じゃあ人間の脳は携帯電話にも劣るのかというと、幸いにというべきか、残念ながらというべきか、人間が作った機械には考える力や創造力はほとんどない。専門家でないので詳しいことは分からないが、現在のスーパーコンピュータの処理能力をもってしても、倏並みの知能〞もないらしい。とすると、人間が誇るべきものは考える力、また創造力であろう。

入学直後の学生に「調査事項」という課題を出すと、百科事典やウィキペディアをコピペ(コピー&ペースト)したようなレポートが山のように積み上がる。「少しは、頭を使って分析しなさい。間違っていてもいいし、おかしな論理でもよいから自分の考えを展開しなさい」と、口を酸っぱくして繰り返すようにしている。常に自分の頭で処理して、自分の言葉に直すこと。他人に説明できるように内容を練り直すこと。他人に分かってもらうには、内容を10理解してやっと1説明できる。調べるだけでなく 、自分の考えを持つよう心がけることが考える力を育成し、創造力を養う方法だと私は思っている。繰り返して申し訳ないが、「コピペ能力」は貴方より携帯電話のほうがずっと正確で早いし、誤字脱字もない。

ちなみに、私は携帯電話を持っていない(2010年11月現在)。

 

あきやま・やすのぶ 1966年福岡県生まれ。九州大学大学院理学研究科修士課程修了。博士(工学)。専門は化学工学・反応工学。