Column:知の架け橋
2011年8月1日号
「食を語る」
医学部医学科内科学系 川田浩志 准教授

毎日の食事で病気予防
“地中海風”料理で健康に


今から20年以上前の、私が医師になりたてのころのこと。先輩医師から「人が癌(がん)になるかどうかは、ほとんど遺伝で決まっている」と教わりました。しかし、当時担当していた20歳代の女性の癌患者さんが、面会にいらしていた一卵性双生児の妹さんと会話している様子をなにげなく見ていたときに、「それは違うのではないか?」という考えが私の頭の中に芽生えました。なぜなら、目の前にいる2人は全く同じ遺伝子をもって生まれてきたのにもかかわらず、私の患者さんは数年前に重い病気を発症して再発も経験しているのに対して、その妹さんは大きな病気に罹(かか)ることなく、あまりにも元気で健康的だったからです。

今では、ハーバード大学の研究者らによる疫学調査などから、遺伝は癌の原因の5%程度に過ぎず、むしろ食事とそれに関連する肥満が主因であることが判明しています。では、どのような食生活を送るのが、癌をはじめとする重大な病気の予防に、現在最も良いとされているでしょうか? その答えは、一言でいえば地中海風の食生活です。「地中海風」というとちょっと漠然としていますが、野菜・果物、穀類(特に全粒の)、豆類・ナッツ・種、魚、オリーブオイル、そして適量のお酒を主体とする食事スタイルを指しています。

野菜・果物が体に良いというのは常識的に理解できると思いますが、ナッツというと、なんとなくコレステロール値が上がって体に良くなさそうなイメージがあるかもしれません。しかし、これまでの25 件もの調査研究を総合して解析したところ、1日平均67グラムのナッツ類を摂取すると、悪玉コレステロールや中性脂肪の値がむしろ低下することが分かり、近年の米国内科学会発行誌(Archives of Internal Medicine)に発表されました。これはコレステロール値や肥満などを気にするあまり、油分だからといってなんでも避けることが、むしろ健康にとって逆効果になるかもしれないことを示しています。

魚が体に良いのも、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの脂質を摂取できるためで、これらの積極的な摂取によってさまざまな病気を回避できる可能性があります。お酒にしても、体質的に飲める人なら適量(350婀魅咫璽1〜2本、日本酒1〜2合)であれば、むしろ全く飲まない場合よりも死亡率を低下させることが、特に男性で明らかとなっています。

1995年から2008年にかけて世界中で行われた食事スタイルと病気との関係に関する主な12件の調査研究の総合分析(延べ157万4299人を対象とした前向きコホート研究のメタ解析)の結果が、2008年に英国医師会誌(BMJ)に報告されました。それによると、地中海風食生活を心がけると、さまざまな病気の罹患率や死亡率が低下し、特に心血管疾患による死亡率は9%低下、癌の罹患率と死亡率は6%低下、パーキンソン病とアルツハイマー病の罹患率は13%低下し、全体の総死亡率が9%も低下することが分かりました。

このように健康的な食生活は、自分の未来への確実な投資となります。皆さんも地中海風の食生活を参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

かわだ・ひろし 1965年生まれ。東海大学医学部卒業。東海大学大学院医学研究科先端医科学専攻修了。医学博士。米国サウスカロライナ医科大学内科ポストドクトラルフェローを経て現職。専門は血液内科学、再生医学、抗加齢医学など。