Column:本棚の一冊
2011年10月1日号
『独学のすすめ』


独学力を身につけよう
国際文化学部地域創造学科 谷本一志 教授


一冊の本との出会いが、時には人生を変えるほど大きな影響力を持つ。大学では政治学科に進学し、2年次まで何の違和感もなく過ごしていた。やがて、学びたいことが徐々に変わっていった。転学・退学の道も頭をよぎったとき、この本に出会った。35年前に書かれた本なのに、今でも新鮮さを保っている。

本当に独学で学ぶことができる者は、教育機関に頼らず自らの道を切り開いていけるはず、という。

もちろん、学校のない時代には皆独学であった。それは分かる。だがこの一文は、せっかく夢を膨らませて大学に入学した私にとっては、少しばかり水を差された気がした。ただ、人間一生勉強しなければならず、その多くは独学による、という考え方には共感した。独りよがりに陥るリスクもあろうが、独学とは主体的に学ぼうとする姿勢にほかならない。

私は次第に経済学に強い関心を持ち始め、単位にならない他学部聴講を重ねた。そちらのほうがワクワクして楽しかった。後に進んだ大学院では農業経済学を専攻し、今は学生に地域経済学を教えている。文系だから可能なのかもしれないが、独学を基本に学問領域に拘束されることなく知的好奇心に任せ、関心分野を広げていくというのは楽しいことだ。

その意味で、『独学のすすめ』によって肩を張らず、自然体で未知の分野へ挑戦することができるようになったような気がする。本を読むとき、たとえ詳細は理解できなかったとしても、「こんなことを言っている本ではないのか」と大枠を理解する。それでいいのである。映画でも音楽でも、何回か観たり聴いたりして良さが分かることもある。しばらく後になって読んで、ようやく納得することもある。

これからも「学ぶ思い」を失わないようにしたいと思う。大学時代に身につけておきたいことは、一人で学習していける独学力と、人と人との中での応用力の修得ではないのか。この本を読み直し、学生時代を思い起こすことができた。日々、学生のフレッシュな感覚に触れながら、これからも魅力ある講義を続けていきたい。また、心に残る一冊に出会いたいものだ。

『独学のすすめ』
加藤秀俊著
ちくま文庫

 
たにもと・かずし 1952年北海道生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業。名古屋大学大学院農学研究科博士課程(農業経済学)修了。農学博士。著書に『農地経済政策論』(筑波書房)など。