特集:キャンパス展望
2012年2月1日号
環境保全に向けて地域と連携する
海洋学部環境社会学科 仁木将人 准教授

ソーシャルキャピタルとは社会関係資本と訳され、信頼関係のもとに築かれた社会的なつながりのことで、物的資本や人的資本と並ぶ第三の資本です。これを具体的に説明すると、たとえば大規模な地震災害が起きると多くの家屋が倒壊・被災し、その地域内の消防署や警察署では人手が足りなくなります。そのため、被災初期においては、その地域の人々による救出活動が重要です。このとき、普段から地域づきあいが緊密である、すなわちソーシャルキャピタルが形成されていると、「体の不自由な人や高齢者だけの世帯はどこにあるか」といった情報が共有されているので救出作業が迅速に行えるわけです。

ソーシャルキャピタルは環境保全を進めるうえでも、とても重要なことです。環境問題に注目が集まるにつれ、自然のプロセスに沿った社会経済活動が求められるようになり、自然共生型の管理手法である「里山」や「里海」が見直されています。こうした里山・里海型の自然管理は行政に頼るのではなく、地域コミュニティが重要な役割を演じなくてはなりません。しかし、山村や漁村の高齢化・過疎化の進む日本では、そうした地域コミュニティを維持することが難しいので、環境NPOのような組織が地域と協働してソーシャルキャピタルを創出し、それを下支えする必要があります。

海洋学部では若手教員が中心となり2008年から、愛知県三河湾沿岸に位置する幡豆町で、海の生態環境と住民とのかかわりに関する総合的な調査研究を行ってきました。漁業者や地域住民と関係を構築しつつ、海岸環境工学、海洋生物学、水産学、文化人類学といった多様な専門分野の研究者が連携した取り組みです。

また、漁協や教育委員会が開催する自然観察教室のボランティアとして学生を派遣するなど、地域と連携した教育活動も実践しています。10年には幡豆町から委託を受けて、生物多様性条約第10回締約国会議に関連して行われた展示イベントに参加。これまでの研究活動を広く紹介しました。こうした実践活動は、学生にとってコミュニケーション能力や協調性といった、企業が学生に求めるスキルを鍛えるまたとない機会となっています。幡豆町は、昨年4月に周辺の一色町や吉良町とともに西尾市と合併しました。行政組織は広域化しましたが、今後も風光明媚で豊かな漁業資源を育む海を維持していくためのソーシャルキャピタルの形成に、我々の研究プロジェクトがいくらかでも役割を果たせるのではないかと考えています。

今後、環境保全を効果的に進めるために情報の共有や連携・協働のためのルールづくり、人材の育成が必要になります。大学を交流のためのプラットホームとし、学生とともに新しい自然管理手法が提案できればと思っています。また、多くの学生が活動に参加し、経験を通して学んでくれることを希望しています。

 
(写真)学生が自然観察教室のボランティアを務める

にき・まさと 1972年岡山県生まれ。長崎大学工学部卒業。京都大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門は海岸環境工学。