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総合

2012/03/01

【座談会】東日本大震災から1年

大学の知を復興に生かす

2011年3月11日の東日本大震災から間もなく1年。東海大学ではチャレンジセンターの「3・11生活復興支援プロジェクト」を中心に、多彩な復興支援活動を展開してきた。今後も長期的な視点で活動を継続・発展させていくためには何が必要か? 大学の知を復興・再生に生かすための課題について、4人の教員に語り合ってもらった。 ※単行本『被災地と共に歩む』(東海大学チャレンジセンター編)から抜粋。

長期的な支援のためには大学の力が必要になる


杉本 震災直後から「自分たちに何ができるのか」を学生たちと話し合い、3・11生活復興支援プロジェクトの活動をスタートさせました。この活動の一環で、学生とともに東北地方を何度も訪れ、応急建築「どんぐりハウス」の建設などを通して現地の人々と交流を
深めました。被災地に行くだけが支援ではありませんが、現場でしか得られない体験もあります。そういう意味では、教員だけでなく学生も一度は被災地に行ってみるべきだと思います。

妻鹿 自分でボランティアグループを見つけて積極的に参加している学生もいますが、大多数の学生は受け身です。学生たちをその気にさせ、活動を継続させるためには、大学の力がどうしても必要だと思います。各大学にボランティアセンターをはじめとした組織ができているのはそのためでしょう。さらに学生の場合は、経済的な問題や授業時間との兼ね合いもあります。ある学生が短期ボランティアから戻ってきた後、「支援に行ったはずなのに、逆に被災地の人にお世話になってしまったような気がする」と言っていましたが、1週間ぐらいだと現地の人も何をしてもらえばいいのかわからない。現地と信頼関係を築き、組織とつながらなければ、長期にわたる効果的な復興支援は難しいと思います。

「忘れられた被災地」記憶の風化が今後の課題

本田 復興支援活動の継続のためには震災の記憶の風化も心配です。これに加え、観光学部の教員としては風評被害も気になります。震災直後の混乱が一段落した今、観光による震災復興の可能性を考える時期にきていると感じているからです。東京電力福島第一原子力発電所から約100キロの地点にある福島の会津若松は、震災による大きな被害を免れ、放射線量に関しても「健康に影響はない水準」という評価があるにもかかわらず、3月以降は観光客が激減しました。他方、6月に世界遺産に登録された岩手県の平泉では、前年より観光客が激増しました。「福島=原発事故」というイメージを払拭するためにも、継続的に正しい情報を発信する戦略が求められるでしょう。

 風評被害は漁業にとっても大きな問題です。日本でも有数の漁港が点在する被災地にはフィールドワークの漁村巡りで知り合った人も多く、“人ごと”とは思えません。中でも茨城は「忘れられた被災地」になりつつあるという意味で、特に心を痛めています。津波の被害自体は宮城や岩手のほうが甚大です。原発のことを思えば福島がいちばん大変なのはもちろんですが、北茨城もかなりの津波被害が出ていて、壊れた港や流された家も数多くあります。茨城の風評被害を中心に調査を始めたばかりですが、現地ではマスコミの報道に一喜一憂させられている状況です。

学内ネットワークを広げて幅広い活動に

杉本 東海大学には理系から文系まで多彩な専門家がいて、それぞれが専門的な立場から独自の目線や考えを持って多様な活動をしています。学内にこれだけ頼もしい先生方がいるのに、互いに知り合い、意見を交換し、協力しないのはもったいない。災害に対する学問や研究を進めて、それをどのように今後に生かせるのか―大学全体として「災害学」のような学問を追求していくべきだと考えています。

妻鹿 キャンパスをこえた教員同士のつながり、学生のつながりをもっと強固なものにできれば、さらに豊かな活動ができますね。学部や学科をこえたノウハウの共有ができると、やがては「復興学問」のようなものが深まっていくのではないでしょうか。

本田 観光学部は2010年4月に開設されたばかりの新しい学部です。12年度にはようやく1期生が3年生となり、これまで以上に学生の主体性が期待できる授業や研究が可能になります。東北地方は観光資源が豊かで元気なまちも数多くあるので、ゼミ活動などで学生と一緒に現地を訪れ、観光という視点から被災地を活性化していくために必要なことを考えたいと思っています。

 漁業や漁村などに興味を持っている学生を、東北地方に積極的に連れて行きたいですね。若い人が行くと地元の人が元気になる。周囲の人に元気を与えられるのは若い人の特権です。学生にはどんどん現場に入っていってもらいたいし、現地の人に活用されてほしいとも思います。

杉本 東日本大震災は不幸な出来事ではありますが、まちづくり、人づくりのチャンスと前向きに考え、これを機に新たなつながりをつくっていくことが求められています。私がかかわっている3・11生活復興支援プロジェクトについて考えれば、支援活動を継続すること、震災を記憶し続けることも含めて、どんぐりハウスに通うことをどれだけ日常化できるかが、これまで以上に大切になります。毎日は難しいとしても、1カ月に1回、2カ月に1回でも、行き続けることが重要なのだと思います。皆さんにもぜひ、どんぐりハウスを研究・教育活動の場にしていただき、被災地の復興を一緒に考えていきたいと願っています。

 
<出席者(写真上から)>
▽妻鹿(めが)ふみ子 教授(健康科学部社会福祉学科)
専門は地域福祉論、ボランティア論など。日本ボランティアコーディネーター協会代表理事として、ボランティアコーディネーターを被災地の災害ボランティアセンターに派遣する活動にかかわる。

▽本田量久 准教授(観光学部観光学科)
専門は社会学理論など。研究者ネットワークを通じて被災状況やボランティア活動に関する情報を収集。2011年8月中旬に宮城県石巻市でボランティアに参加。東北の観光地もたびたび訪れている。

▽関 いずみ 准教授(海洋学部海洋文明学科)
専門は漁村社会学、地域計画。専門である「漁村」をテーマに、国や自治体による防災マニュアルの見直しや被災地域の調査、水産経済関連の情報交換などに取り組んでいる。

▽杉本洋文 教授(工学部建築学科)
専門は建築設計、都市デザイン、まちづくり。2004年の新潟県中越地震では学生とともに応急仮設住宅「丹沢・足柄まごころハウス」を建築。3.11生活復興支援プロジェクトのアドバイザーを務める。
『被災地と共に歩む―3.11生活復興支援プロジェクト―』
3月中旬発行単行本。東海大学チャレンジセンター編、B5判、定価1470円※税込み。プロジェクトの1年間の活動の記録とともに、ここで掲載した座談会の詳細も収録されている。

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