特集:研究室おじゃまします!
2012年3月1日号
被害を最小限にとどめる
津波のシミュレーションモデルを利用

国内観測史上最大といわれた東北地方太平洋沖地震では、津波を含む自然の威力をいやというほど認識させられた。災害被害を減らすためには何が必要なのか? 津波のシミュレーションモデルを利用した「減災」に取り組んでいる工学部土木工学科の山本吉道教授の研究室を訪ねた。(構成・志岐吟子)

2011年3月11日から1年近くを迎えた今も、各地で地震が頻発している。私たちの身の回りには河川の堤防、港湾の防潮堤など社会基盤を支える構造物が数多くあるが、自然災害に負けないハードづくりは可能なのだろうか。

津波のメカニズムや被害シミュレーションの算出などを中心に、防災・減災の研究を行っている山本吉道教授は、「どんな津波でも防げる、城塞の壁のようなスーパー堤防を町の周囲に何十兆円もかけて造ることは不可能ではありませんが、その耐用は50年ほど。その間に大地震がくるかどうかわかりません。自治体の予算が減少している現在、巨大で丈夫な構造物を造って防ぐよりも、被害を減らすことを考えるときにきています」。

シミュレーションで被害を予測する
そのため、災害の規模を想定して被害を最小限に食い止める「減災」の考え方が、より現実味を帯びてくる。被害の規模を想定するために必要なのが、山本教授の研究する津波シミュレーションだ。 

これまで海岸や港湾、河川などの防災や環境保全に関する事業計画などに関する研究を行ってきた山本教授。近年は防災・減災の専門家として、学内外から意見を求められることも多い。

研究では、津波や高潮の被害にあった国内外の被災地の地形や、崩壊した建物の種類・構造を細かく分析しながら、波の高さや速度と被害、特性などを一つひとつ関連づけていく。国内外の被災地を訪れるフィールドワークも重要だ。「シミュレーションはあくまでも机上の計算ですから、現地での調査を行うことで、初めて数値に真実性を持たせることができます」

東日本大震災以降、東北の沿岸部でも調査を続けてきた。防潮堤や山肌を覆うコンクリートの壁は、海側からの津波には耐えたものの引き潮によって破壊された例もあり、現地での被害状況を見て気づくことも多かったという。

平塚市の津波浸水を数値計算モデルから想定
昨年12月には、湘南校舎のある平塚市からの依頼を受け、市内の「津波浸水シミュレーション」と題した報告書を作成した。水門や堤防の整備状況、津波の高さなどさまざまな条件下によって、どのような被害が想定されるのかを、津波の数値計算モデルから想定。それを動画や地図などを使って、わかりやすく解説したものだ。

地震が起きると、テレビやラジオは「津波が来るかもしれないので、海岸には近づかないでください」と注意を促すが、内陸部に住んでいる人にとっても、津波は無関係ではない。「海と河川はつながっているため、影響はもちろんあります。今回の報告書が、平塚市民の減災意識を高めるきっかけになればうれしい」と話す。地震や津波の発生そのものは防ぐことはできないが、備えあれば多少の憂いは減らせるのだ。

focus 人のやっていない分野で
    社会の役に立ちたかった


土木工学への興味は海から始まった。播磨灘に面した兵庫県高砂市で育った山本教授は、本州四国連絡橋を見るうちに、その構造や建築技術について深く知りたいと考えるようになった。

「橋から海洋構造物、海岸防災へと興味の方向性が移っていったのは、どうせ研究するのなら人の後追いはつまらないと思ったから。人がやっていない分野で社会の役に立ちたいと考えていたら、津波の研究者になっていました」と笑う。

土木工学と聞くと、道路や橋などの公共事業に関連する印象が強いが、海岸浸食や水質検査、波力発電など、自然環境やエネルギー問題にまつわる研究も盛んだ。

山本教授は、「個人住宅以外の建造物すべてが土木工学に含まれます。レインボーブリッジや青函トンネルのような長大橋、長大トンネル一つとっても、そこには人工衛星と同じくらいの最先端技術が集約されている総合的な学問なんですよ」と話す。

社会に必要とされる技術者となるには、数学や物理などの基礎学力はもちろんだが、毎日少しずつでも、自ら進んで勉強する習慣が大切だという。「人の能力なんて、一部の天才を除けば大して変わりません。成功するまであきらめない根気強さがあれば、たいていのことは成し遂げられます。だから、1回や2回の失敗で投げ出したらもったいないですよ」

 
やまもと・よしみち 1981年に埼玉大学大学院理工学研究科博士課程修了後、株式会社アイ・エヌ・エーに入社。海岸・河川の防災・環境保全・設計を担当。2003年より東海大学工学部土木工学科教授。著書に『CoastalEngineering Manual』など。