特集:研究室おじゃまします!
2012年4月1日号
捨てる熱をエネルギーに変える
未来の動力、波動エンジン
工学部動力機械工学科 長谷川真也助教

再生可能なエネルギーへの期待と注目が高まる中、安定した次世代エネルギーの一つとして注目を集めているのが熱音響機関「波動エンジン」だ。この実用化に向けた研究に取り組んでいる、工学部動力機械工学科・長谷川真也助教の研究室を訪ねた。 (構成・志岐吟子)

現在、工場や乗用車、工業機械などで使われているエネルギーの約65%が「廃熱」として未使用のまま大気中に捨てられている。長谷川助教が研究している熱音響機関「波動エンジン」では、理論上300度以下の廃熱から30%の効率で電力をつくることができる。ガソリンエンジンは現在2000度で30%の熱効率にとどまっていることからも、このシステムの効率の高さがわかる。大量に捨てられている未利用廃熱の再生を可能にする、未来の動力システムだ。

「波動エンジンの仕組みは雷鳴と同じです」と長谷川助教。雷鳴は電流が空気中を流れる際に、空気の一部が急激に温められて膨張。温められた空気と周りの冷たい空気の密度の差で振動が起き、大きな音が生まれる。こうした現象自体は古くから知られていたものの、これを利用して効率よく音を発生させる仕組みがわかったのは1999年のこと。その後、クリーンエネルギーに注目が集まる中、熱回生技術として欧米を中心に活発に研究されているが、実用化には至っていない。長谷川助教の研究は、その理論をより細かく解明して、「波動エンジン」として応用。そこで生み出されるエネルギーを、発電や冷却に利用しようというものだ。

3つのエンジンで8倍の力を生む
波動エンジンは、ステンレス製のメッシュを2つの熱交換器で挟んだ形になっている。では、どうやって動いているのだろう。「ステンレスメッシュの片方を廃熱を使って温めた熱交換器で加熱すると同時に、反対側を冷却水を流した熱交換器で冷やす。狭い空間に急激な温度差が生まれることで空気の振動が生じ、音が発生します。要は狭い空間で人工的に雷鳴に似た現象を起こし、音波エネルギーを得るのです」

試作段階の増幅システムでは、3つの波動エンジンを直列につなぐことでエネルギーを2倍、4倍、8倍と増幅させることにも成功している。さらに、そこで波動エンジンから生まれた音波エネルギーを発電や冷却に使う「回生システム」も開発中だ。

シンプルな機構でメンテナンスも楽
発電には、波動エンジンの先に「リニア発電機」を取りつけて音波から電気を起こす。一方、熱から音波を発生させるのとは逆に、音波から冷熱をつくることもできる。音波を波動エンジンに入力することで、可動部品を持たないノンフロン冷却として使うことも可能だ。

システムの特徴は、構造がシンプルなため安価で量産が簡単なことと、ガソリンエンジンに不可欠なクランクやピストンといった可動部品が全くないため、保守点検も楽なところ。タイヤのように摩耗する部品もない。このシステムが実用化されれば、自動車や工場で大量に捨てられている「廃熱」を使った自家発電や、ノンフロンの冷凍庫などを作ることができるのだ。

「エネルギーを消費する時代から、有効活用する時代へ」。よく耳にする文言だが、長谷川助教の研究は、まさにこの願いを実現させる可能性を秘めている。


focus 一人の力はわずかでも
    協力すれば力を発揮できる


「なぜこの石はこういう形をしているのだろう」。小学校から家までの通学路、目に入るモノや自然現象すべてが好奇心の対象だった。考え始めると時間を忘れて没頭してしまうため、学校から自宅へ帰るのに時間がかかって両親を心配させたことも。次から次へとわいてくる疑問や質問を調べ、解決していく喜びに夢中になった少年時代だという。「誰よりも研究が好きという気持ちは今も変わりません。ただ、好きなことをやって、それが社会や人のために役立つとすればこんなにうれしいことはありません」と、研究者の道を志したきっかけを語る。 

研究を進めるうえで大きな支えになったのが、「人とのかかわり」だという。「研究者の道に理解を示し、支えてくれた家族や温かく見守ってくれた先生。大学の研究室ではグループで課題に取り組んでいたのですが、一人ではできないことも仲間と協力すれば解決の糸口を見つけられた。人とのかかわりの中で、個人の力は最大限発揮できると思います」

自分を高める努力に加えて、自由な発想を生かせる環境と支え合う仲間。さまざまな要素が重なり合い、新たなエネルギーが生まれ、研究へ邁進できるのだろう。「今進めている研究テーマも、他の専門分野の先生方や民間企業との共同研究でさらに深めていきたい」

 
はせがわ・しんや 1978年新潟県生まれ。2006年、東海大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期修了。自動車メーカーへ入社し、次世代エネルギー技術の研究に従事。10年より現職。