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コラム

2012/04/01
東海大学の先生方が、教育・研究活動などを通して学生と接する中で感じたことをつづったリレーコラム(Back Number掲載中)

学生の“居場所”をつくりたい

国際文化学部デザイン文化学科 藤森 修 准教授

2008年に旭川校舎にある芸術工学部の教員として着任してから4年が過ぎた。そして今年度からは、札幌校舎に新設されたデザイン文化学科で教鞭を執る。東京出身の私にとって、北海道という環境には憧れと不安があった。それまで、自宅や勤務先では林立するビルばかりを目にしており、旭川校舎で与えられた研究室の窓の外には、私を鼓舞するように激しく白樺が揺れて窓をさすっていた。そのとき初めて、それまでの自分は、無機質なコンクリートの塊の中にアイデンティティーを確認していたのだと気づいた。激しく音を立てて揺れる白樺を目で追いながら、「さあ、今日からここで始めるのだ」と。

芸術工学部の先生方の、学生指導にかける情熱は目を見張るものがあった。北欧では「学ぶ」と「教える」が同義語だと聞いたことがあるけれど、先生の情熱は学生との距離を引き寄せていた。学生は校舎のあちこちに居場所を見つけ、夜更けまで課題に取り組んだり、作品を制作していた。学生や教員による手づくりの展示会も折々に開催され、前向きで熱気のこもった空気に包まれていた。

芸術工学部の募集停止が決まったときの先輩教員の心境を知るには、僕はあまりにも場違いな「まれびと」だった。互いに無口であっても、その静寂の意味は大きく異なっている。その決定を学生に伝えた学部長に、無言の静寂を引き裂くように、激しく、白樺のような拍手を送った学生たちは、十分に大人だったし、美しかった。そこには甘美な惜別の情などは感じられなかった。

デザイン文化学科が新設されることが決まってからは、その意味と意義を教職員で何度も話し合った。北海道について熟知していない私でも、札幌という環境がいかに北海道の中で特異な場であるかは知っている。「デザイン」による社会への切り込み方は、旭川での展開とは異なるべきであることが議論された。「絵を描くことや、ものづくりに特化した人材だけでなく、社会の中で異分野の人と話し合い、リーダーシップを発揮できる人材も育てよう」「デザイナーを指示する人材を求められている事情も鑑みて、自らがデザインをつくり出し、理解するカリキュラムも設けたい」。振り返れば、おびただしい数の検討会を経てきた。学外からの新鮮な助言にも恵まれた。議論を重ねる中で、当初は違う方向を見ていたであろう教員の視座が一定の方向に収束してきたと思う。

私の個人的な希望であるけれど、新学科では授業後も学生が滞留できる場をつくりたい。新学科は国際文化学部の中にできるから、各国からの留学生と談話する機会も多いだろう。また、1学部2学科の芸術工学部に比べると規模が大きいメリットに恵まれることになる。種子が滞留することで、他分野の学生との協同プロジェクトが自然と芽生えていく、そんな環境づくりを心がけたい。

 
(写真)有志学生との展示会作業風景

ふじもり・おさむ 1969年生まれ。芝浦工業大学大学院卒業。2000年度デンマーク政府奨学生。03年デンマーク・オーフス建築大学卒業。専門は建築デザイン。

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