Column:知の架け橋
2012年4月1日号
「震災・防災を考える」
政治経済学部経営学科 遠藤誠二 教授
謙虚な心で「原点回帰」を
3.11以後のマーケティングを考える


「3.11」は、少なからず日本の企業活動に影響を与えている。輸出の減少と発電用燃料の輸入により、貿易赤字の傾向が続いているのだ。しかし、それ以前から世界での日本企業の地位は低下していた。日本製品が世界を席巻していた自動車や薄型テレビの市場は、驚くほど変化した。要因の一つが1990年代から続く日本企業の内向き傾向であり、まさにガラパゴス化である。一見、日本は90年代よりも住みやすい豊かな社会になってきたように見えるが、一方で「メイド・イン・ジャパン」製品の質の低下、魅力のなさには落胆させられることが多い。

「3.11」は、このような日本の企業に対するウェイクアップ・コールになったのではないか。これまで多くの日本企業は、欧米企業が開発した製品を改良/カイゼンする、いわゆるキャッチアップ型の製品開発を進めてきた。しかし、それだけでは創造的でイノベーティブな世界の企業には太刀打ちできず、残念ながら現在、世界に通用するイノベーティブな日本製品は非常に少ない。今の日本企業は、小さな国内市場の中で果てしない不毛な製品開発を続けて消耗しきっている。その結果、日本製品は世界の市場から徐々に後退しつつあるのだ。人々の生活を豊かにし、わくわくさせてきた日本製品が、世界市場に再び登場するのであろうか?

このような状況の中で、「3.11」が起きた。この巨大な自然災害は、日本企業に「マーケティングの原点に戻れ」と強く迫っているのではないか。これまでのマーケティングの方法は通用しない。最近、よく「日本食は世界一の食べ物だ」と聞くが、それは「日本人にとって世界一」ということだろう。そんな不遜な気持ちで、「メイド・イン・ジャパン」製品が世界に普及するのだろうか。世界には日本人の感覚ではとうていわからない「おいしい」という基準が存在するし、多くの「おいしい」食べ物が潜んでいる。そこにこそ、新しいビジネスチャンスが生まれる。そして、それを見抜く力をマーケティングは与えてくれるのだ。

日本でとても人気のあるP・F・ドラッカー(1909〜2005)は、マーケティングの目的は販売活動を不要にすることだと強調している。言い換えれば、強力に販売活動を推し進めなくても、マーケティングが機能していれば自然に社会に浸透するイノベーティブな製品が開発できるということである。日本の企業は戦後、ターゲット市場に対して謙虚な心でマーケティング・リサーチを行い、真摯に現地の人を豊かにする製品を提供してきた。もう一度、謙虚な心で相手の市場の人々と対話し、彼らの生き方を注意深く観察し、彼らをわくわくさせる商品を提供してゆけば、「メイド・イン・ジャパン」製品が再び世界に普及することは可能であると思う。

昨年、日本は世界一の援助受け入れ国になったという。日本には、もう一度世界に恩返しする責任がある。「3.11」以降の日本企業の世界でのマーケティング活動に、微力ながら協力していきたい。

 

えんどう・せいじ 慶應義塾大学商学部卒業。専門はマーケティング。研究分野はマス・カスタマイゼーション。特に、オンライン・マーケットにおける消費者と企業の関係性についての分析。