Column:知の架け橋
2012年9月1日号
「震災・防災を考える」
文学部歴史学科考古学専攻 近藤英夫 教授
大切なのは消滅を防ぐこと
土地の記憶を残した文化財


災害が起きたとき、まず優先されるべきは命の問題である。命の次には、生活の問題がある。甚大な被害があっても、そこにただ立ち止まっているわけにはいかない。地域の復興・再建がなされなければならない。復興・再建には、文化財の問題が密接にリンクしてくる。過去に私たちは、阪神淡路大震災や新潟県中越地震、加えて近年各地で起きている水害など、さまざまな災害に直面してきた。これらの経験を通して私たちは、文化財が「地域の紐帯」となることを学んできた。そのため、地域再生のプランが具体的になるまで、文化財の消滅・散失を防ぐことが必要である。

東日本大震災に関しても文化財の保全のために、さまざまなレスキュー事業が行われている。文化庁以下の行政を中心としたレスキュー作業、地域の大学や学会を中心としたレスキュー作業、さらには民間ボランティアからなるレスキュー作業など、さまざまな動きがある。そしてその多くが、現在進行形である。私は震災発生から2カ月後に、このうちの一つ、「宮城歴史資料保全ネットワーク」(東北大学東北アジア研究センターが拠点)を訪れた。そこには、水をかぶった文書、フィルムや絵画など、多くの品々が持ち込まれ保存措置を待っていた。持ち込まれた文化財は、そこで保存の措置が施されるが、手に負えないものは、全国各地の機関・組織に託される。文字どおりの支援網ができている。岩手県でも茨城県でも、地域の大学や歴史・考古学系の学会を中心に、こうしたネットワークができあがっている。

深刻なのは福島県の状況である。福島県では東京電力福島第一原子力発電所事故のため立ち入りができないか、制限されている地区も多い。これら地域においては、震災発生後の文化財の状況が十分に把握できていない。今年度になって、被災文化財の一部を、除染を施した後に県の施設に収納するという計画がやっとあがってきた。それも「一部」の救済にすぎず、現地に放置された文化財が今後どうなっていくのか、気がかりである。

復興・再建に関してはこのほかにも、さまざまな問題がある。津波被害を受けた地域の高台移転問題もその一つである。「移転予定地に遺跡が存在した場合、先行して遺跡調査をしなければならず、そのために復興が遅滞するのではないか」など、復興の遅れを懸念する声が聞こえている。実際、こうした論調での報道がなされてもいる。移転計画そのものが具体的に決まっていない段階であれこれ言うべきでないが、調査の必要が生じた場合、文化庁は全国の文化財関係職員の派遣措置をとることを表明している。こうした措置は阪神淡路大震災に前例がある。この経験に照らして、調査は決して復興の足かせにはならないと、私たちは確信している。

遺跡の調査とは、その土地がどのようなものなのかを、雄弁に語るものである。きちんとした調査をし「土地の記憶」を把握することが、今後そこに生活していく人たちにとって、必要なことであると思う。

 

こんどう・ひでお 1948年東京生まれ。國學院大学文学部卒業。上智大学大学院文学研究科博士課程満期退学。修士(文学)。専門はインダス文明の研究。国内では、日本考古学協会に所属し、現在理事。同協会内では、遺跡の保存・保護のセクションを担当している。