Column:知の架け橋
2012年11月1日号
「震災・防災を考える」
国際文化学部地域創造学科 石田秀樹 教授
“ハード”への過信は禁物
「経済効率優先の街づくり」への警鐘



2010年12月、旭川に「道北の防災を考える会」が立ち上がった。地質や測量の専門家、気象予報士、地震の研究者、元行政マンなど異業種の手弁当集団である。都市の気候特性を調べていた私にも声がかかり、末席に加わることとなった。

札幌から北へ140キロ、災害が少ないといわれる旭川だが、40年ほど前までは一度に数千戸が流潰する洪水被害が頻繁に繰り返され、直近では15年前にも4名の死者がでる洪水に見舞われている。市街地の堤防が整備されて一見安全になったかに見えるが、近年の集中豪雨では市民に見えにくいところで土砂崩れや河川の氾濫(はんらん)が頻発しており、暮らしの安全は綱渡りの状態にある。万一、堤防やダムに亀裂でも入ったらひとたまりもない。その3カ月後、東北を大震災が襲った。旭川も揺れた。地殻と文明に歪みが溜まっている。

大震災から8カ月、2011年11月に旭川地方気象台の企画で開催された「防災気象講演会」で、気象・治水の専門家との対談を仰せつかった。講演会に先立って、同年9月に起きた旭川圏の豪雨被災状況を視察した。美しい農村景観で知られる「美瑛の丘」は、大規模な表土流出の深い傷痕が幾重にも重なって各所で道路が寸断され、土砂で埋まった“調整池”はその機能を失っていた。川沿いの道は流されて河床と化し、橋脚の基礎がむき出しとなって不安定な姿をさらしていた。この豪雨では、道の崩落に気づかずに通行した2人の方が命を落としている。講演会当日には超満員の会場からも多くの発言があり、市民の関心は高い。自然現象が「災害」となる要因は地域によって一様ではない。演者が口をそろえたのは、「ハードへの過信は禁物。行政からの指示を待っていては間に合わない。危ないと思ったら逃げろ。自分の町をよく知ることと、日常的な“互助”の仕組みづくり(ソフト)が大切」。狷震樟〞に居心地のよさを見いだす都市生活者にとって重い課題である。

今年2月、某放送局の記者から電話があった。「旭川にある小学校の体育館での宿泊避難訓練に参加したが、あまりの寒さに寝るどころではなかった」と。“雪と寒さ”は北国の美しさを際立たせる。一方で対応を誤れば命取りになる。阪神・淡路大震災では寒さのために3000人近くの方が肺炎で亡くなっている。最低気温マイナス25度、積雪深2メートル、人口35万人の旭川市が用意している毛布は3500枚にとどまる。電気が止まれば平時の暖房器は使えない。過酷な災害は、全国一律の「経済効率優先の街づくり」への“警鐘”でもある。

 
(写真)河川を埋め尽くす土石流(遠別町と中川町の境界付近)時間雨量60ミリ超の集中豪雨の爪痕 
※2011年6月、撮影:佐藤進・道北の防災を考える会

いしだ・ひでき 1953年北海道生まれ。北海道大学工学部建築工学科卒業。北海道大学大学院工学研究科建築工学専攻博士課程修了。工学博士。専門は建築環境学。日本建築学会、日本雪工学会、住まい・環境教育学会、日本木材学会、北海道建築技術協会などに所属。著書に『住まいの断熱読本 夏・冬の穏やかな環境づくり』『都市環境のクリマアトラス』『生活科学概論 くらしと住まいを考える』などがある。