Column:知の架け橋
2012年12月1日号
「震災・防災を考える」
海洋研究所 地震予知研究センター長 長尾年恭 教授
“想定されている”危機
低頻度大規模災害にどう対処すべきか



2011年3月11日、東北地方沖でマグニチュード(M)9という超巨大地震が発生し、津波により多くの死傷者が出てしまいました。そして東北地方太平洋沖地震では狒枋螻〞という言葉がいろいろな場面で用いられました。それに対し、東海大学が位置する関東地方南部から東海地方にかけては、近い将来、「東海地震が発生する」といわれています。実は東海地震はまだ発生していないにもかかわらず、すでに“名前のついている”世界で唯一の地震です。つまり地震予知の3要素といわれる「いつ、どこで、どれくらい」のうちの「どこで、どれくらい」は予測されているのです。

このようなことから現在、気象庁は24時間体制で東海地方の地下を監視しています。最近では地下で非常にゆっくりとした振動現象(深部低周波微動と呼びます)も発見され、このような現象が東海地震の前には頻繁に発生するようになるという可能性も指摘されています。東海地震の予知は実際には「予知」というより、地下をしっかりと監視して、地震につながる現象が観測されたらいち早く市民に伝えるということで、ある意味、がんの早期発見のようなものと考えてください。

東海地震で一番の問題は、地震が発生してから津波が襲来するまで、ほとんど時間的余裕がないということです。東日本大震災では津波の襲来まで最低でも20分はありましたが、東海地震ではほぼこれがゼロとなります。12年8月29日、政府は「次の東海沖から南海沖で発生する巨大地震では、最大32万人の死者が出る可能性がある」という発表をしました。この発表では同時に「すぐ避難を開始すれば80%の人は助かる」とも発表されました。逆にいえば、残りの20%の人は助かる可能性がきわめて低いということなのです。この人たちを救うには地震予知しかありません。このためにも、地震予知研究は今後も積極的に続けることが必要です。言い換えれば、人的被害を減らす最後の砦が地震予知なのです。

地震というものは、ある意味数分で終了します。それ以降は復旧作業に移行しますが、日本列島を襲う自然災害では、実は火山噴火が真の意味で大災害なのです。日本では九州の火山に多いのですが、「破局的噴火」という噴火が起こることがあります。たとえば9万年前の阿蘇カルデラを作った噴火では、九州全域の動植物が全滅しました。約7千年前の鹿児島沖の喜界カルデラを作った噴火では南九州の動植物が死滅、九州では噴火を境に縄文土器の様式が一変したといわれています(つまり定住者が変わった)。

私たちにとって最も身近な火山は富士山ですが、富士山は人間でいえば20歳といったところで、今後必ず噴火します。富士山が噴火すると噴煙や火山灰により、羽田や成田といった空港が何カ月も使えない、新幹線や東名高速道も通行止めという事態が予想されます。我々はこのような事態が将来発生し得るということを念頭に置いて、そのときになって「想定外」と言わないようにしなければならないと思います。


 
(写真)東海地震震源域の調査に活躍する地球深部探査船「ちきゅう」(撮影:原田誠)

ながお・としやす 1955年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。理学博士。専門は固体地球物理学、地震予知。大学院在学中に日本南極地域観測隊に参加、昭和基地で越冬経験を持つ。統合国際深海掘削計画理事、地震学会地震予知検討委員会委員など歴任。