特集:キャンパス展望
2013年1月1日号
学ぶべきことは無限にある
文学部アメリカ文明学科 栗原涼子 教授

文学部アメリカ文明学科に着任して2年が経った。本学科の学生はそれぞれ個性的に勉学、サークル活動に励み、教職員は学生たちをあるがままに受け入れ、温かく、ときに厳しく見守っている。現代は情報や物があふれ、地位や名誉、お金や外見が闊歩(かっぽ)している時代であるがゆえに、学生たちの悩みも深い。教員は専門分野の知識を教えることが仕事であるが、このような混迷の時代を迎え、教職員自身がどのような価値観、人生観を持っているのか、どのように社会と対峙(たいじ)しているのか、私たちの生き方そのものが問われている。

私は「アメリカ史」を講じている。よくいわれる「アメリカンドリーム」とは「成功」であり、「功を成し、名を遂げること」に違いないが、普段の絶え間ない研鑽が不可欠である。また、成功とは地位や名誉そのものではないだろう。むしろ、成し得たものを社会にどのように還元するかという、利他の精神こそ貴重なのである。それは謙虚に自己を相対化するまなざしから生まれるものだ。

私は子どものころにフェミニズムに目覚めた。独学で語学を習得し、30年ほど前にアメリカ初の女性史専攻大学院の外国人初の留学生として、ニューヨークに滞在した。不動産屋の物件は手が届かず、野宿も覚悟したが、あるご縁から大学近くの1室を無料で間借りした。持ち主は太平洋戦争中、父と同じ戦地で戦い、戦後は占領軍として名古屋に滞在したという。敵国の娘を親切に助けた話を聞いた父が「アメリカ人の懐の深さに感銘を受けた」と何度も話していたのを覚えている。

アメリカでの生活は文字どおりの「苦学」であった。2年間、授業時間以外は図書館で過ごした。専門分野の書籍、マイクロフィルムのほとんどすべてを読破した。閉館時間になると決まって5冊の本を借り、深夜、読みふけった。パソコンはおろかテレビもない。タイプライターも買えずに友人から借りた。夏でも真冬でも破れたジーンズ1本しかない。学友が心配して指導教授に話し、学長がご自宅に招いてくれた。奨学金と小切手をいただいた。貧乏留学生への格別の配慮であった。

「フェミニズム運動史」研究が生涯のテーマとなった。日本の女性参政権運動とアメリカの運動の比較研究から始め、フェミニズム運動史研究を行っているが、その後は、日本の明治大正期のフェミニズム運動とアメリカの運動の越境的な研究を行う予定である。人を恨まず、貶(おとし)めず、貧しくとも、ただ懸命に生きればよい。何があろうと謙虚に研究は続けた。それ以外に何もない。

学生時代の4年間を大切に、大いに学んでほしい。学ぶべきことは無限にある。無限の知識欲は謙虚さから生まれる。真剣に、精いっぱいの努力をしてもらいたい。単位を取るための勉強ではない。自己を拓き、社会で生き抜くための真剣勝負をしてほしい。今、この瞬間を心ゆくまで味わって、じっくりと力を蓄え、それぞれの美しい人生の花を咲かせてほしいと願っている。

 
(写真)栗原ゼミの学生たちと


くりはら・りょうこ 1953年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒業。サラ・ローレンス大学大学院女性史専攻修了。専門はアメリカ史、女性史・ジェンダー史など。