Column:本棚の一冊
2013年1月1日号
『春を恨んだりはしない―震災をめぐって考えたこと』


書を捨てよ、バスに乗ろう
健康科学部社会福祉学科 西村昌記 教授


3・11後、2年目の春を迎えようとしている今、どれだけの人があの震災の重みを意識しているのだろうか? 確かに風化したわけではないだろう。昨年末の公式発表では死者は2万人に近く、いまだに帰れない避難者が33万人にのぼっている。また、岩手、宮城、福島3県において倒壊した建物は35万件、瓦礫推計量は2768万トンに及ぶ。復興というにはほど遠い。

震災1年後の春から毎月1回、ボランティアバスに乗って被災地を巡っている。陸前高田、気仙沼、南三陸、石巻、山元、いわき、いずれの地もいまだ復旧の最中にあり、震災の爪痕が今もそこかしこにさらされている。地震と津波は自然を前にした人類の無力さを、原発事故は人類の愚かさをあらわにした。その意味で3・11 は我々の岐路であり、立ち止まって未来に向けて想像力を馳せるための標(しるべ)である。

ボランティアバスとは朝日新聞の用語解説によれば、「救援物資やボランティア活動に必要な資材を積み込み、団体で被災地に向かうバス」のことで、NPOやボランティア団体のみならず、観光会社やバス会社などが主催するツアーの参加者が、現在も毎週のように被災地を訪れている。3・11は、ボランティアバスを用いた継続的支援の取り組みや、災害ボランティアのスペシャリストともいえる多くのボランティアリーダーを生み出した。

ボランティアバスで出会った壮年の常連ボランティアSさんは、10年かけて被災地と付き合っていくつもりだと語っていた。アメリカ人ジャーナリストのレベッカ・ソルニットは、大災害後に連帯のコミュニティーが生まれることを「災害ユートピア」と表現したが、そのような非日常的で一時的な現象ではなく、一人ひとりの余力を寄せ合うゆるやかな結びつきが日常的に持続しているのかもしれない。そこから新しい世界のあり方が見つけられるのだろうか。

池澤夏樹の『春を恨んだりはしない―震災をめぐって考えたこと』は、3・11を忘れないために記された書である。最後に少しだけ、その想いを引用しておきたい。「人々の心の中では変化が起こっている。自分が求めているのはモノではない、新製品でもないし無限の電力でもないらしい、とうすうす気づく人たちが増えている。この大地が必ずしもずっと安定した生活の場ではないと覚れば生きる姿勢も変わる」

『春を恨んだりはしない─震災をめぐって考えたこと』
池澤夏樹著
(中央公論新社)

 
にしむら・まさのり 1959年北海道生まれ。法政大学卒業。東洋大学で博士号(社会福祉学)取得。時事通信社、ダイヤ高齢社会研究財団を経て、2005年4月より東海大学健康科学部。共編著に『ソーシャル・インクルージョンの社会福祉』など。