Column:本棚の一冊
2010年10月1日号
『ブギーポップは笑わない』


軽くたっていいじゃないかッ
芸術工学部建築・環境デザイン学科 渡辺宏二 准教授





若者に人気のライトノベル。マンガ、アニメといったコンテンツが現代における日本の輸出文化の最先端だ……と言われ始めてしばらくたちますが、その一端を担っているのがライトノベルでしょう。大人からは、「ナニそれ?」という反応が多いに違いないと思います。知っていたら知っていたで、「そんなマンガみたいなの読んでないで、純文学でも読みなさい! 第一、ネーミングからして犒擇〞って何だよ」と言われちゃうわけですが……。まぁ、軽音楽だって軽い音楽なんだし気にしない。

ご紹介するのは、ライトノベルの潮流を変えたとも言われている、1998年発行の『ブギーポップは笑わない』です。学園もので、SF・恋愛・うごめく暗黒面ありのさまざまな要素がテンコ盛りで、謎の多くが明かされないのは「エヴァンゲリオン」、作品全体に漂う暗いイメージには、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件といった当時の社会の影響を感じさせる物語です。私は少年時代からSF小説が好きでした。大人になってからも、子ども向け、一般向けにこだわらずに読んでいました。もちろんライトノベルもね。『ブギーポップ〜』を読んだときには、すでにアラフォーに手が届く年齢だったと思います。

この物語は、シーンごとにさまざまな登場人物の視点が切り替わるザッピングという手法を用いています。登場人物中、誰一人として全容を知る者はいません。読者が各視点で描かれたものを再構成することで、物語の全体が見えてくるわけです。この手法はそれほど珍しいものではなく、ミステリー小説などではよく見かけるものです。が、私は、作者がこのような物語の描き方を通して、「我々は、世の中で起きていることをメディアを通して間接的に、部分的に知っているにすぎない」というメディアリテラシーの原点ともなるメッセージを発信しているのではないかと、ハッとさせられたのです。ライトノベルにも、直接書かれていること以外に、読者が勝手に深読みできる要素はたくさんあると思うんです。それは決して軽いものとは限らないんじゃないかな。

『ブギーポップは笑わない』
上遠野浩平著(電撃文庫)

 
わたなべ・こうじ 1963年北海道生まれ。北海道東海大学芸術工学部卒業(東京都立大学大学院工学研究科修士課程修了)。専門は建築情報工学、空間構造、eラーニング。著書に『マンガで学べる!構造力学』。