Column:本棚の一冊
2013年4月1日号
『失敗学のすすめ』


失敗や挫折を次に生かそう
情報通信学部組込みソフトウェア工学科  高 正博 教授



学生諸君が卒業後に社会に出て、直面する出来事に立ち向かう際の参考になればと思って本書を選んだ。私自身、大学教員になる前は民間企業で働いており、そのような経験からもお勧めしたい一冊である。2000年に出版後、よく読まれているようであり、その後文庫本として出版されたことから、手に入れやすくなった。すでにお読みなった方も多いのではないかと思う。
 
本書の著者である畑村洋太郎氏は元東京大学教授(現・名誉教授)であり、「失敗学」なる分野を初めて確立された方である。11年3月の福島第一原子力発電所事故の政府事故調査・検証委員会委員長を務められたことから、ご存じの方も多いだろう。
 
「失敗は成功の母」といわれるが、人間は基本的には失敗することは恥ずかしいことであると感じ、できるだけ隠そうとする。その結果、失敗を通じて新たな方法を模索する創造力を培うことができない。また、子どものこから、安全を重視するあまり危険なことや失敗することを避ける傾向があるため、失敗経験から得られる失敗したときの判断能力や発想力が身につかない。
 
世の中のシステムにおいては、「絶対安全」はない、失敗は必ず起こることを前提に人間は行動し、判断する必要がある。技術的にも、また、人間システムにおいても、「絶対」を目指すことはもちろんであるが、いわゆるリスクである「潜在失敗」を認識することが、よりよい技術やシステムを実現することにつながる。
 
『失敗学のすすめ』はこのような視点から、失敗とは何か、失敗の種類と特徴、失敗情報とその伝え方の重要性について述べ、全体を理解したうえで失敗から創造を生むための方法、致命的な失敗をなくすための方策やシステムづくりを提言している。
 
学生諸君には、成功事例や成功する方法を学ぶだけでは、先行指標のない研究開発を行ううえで、他より優れた結果を得るための問題発見、問題解決につながる道を見つけることは難しいことを知ってもらいたい。本書を参考にして、失敗や挫折を次に生かして、創造的な仕事や人生を送るようにしていただければ幸いである。

『失敗学のすすめ』
畑村洋太郎著
(講談社)

 
たか・まさひろ 1948年富山県生まれ。大阪大学工学部卒業。博士(工学)。専門は情報通信ネットワーク/サービス。NTT研究所を経て、98 年から開発工学部情報通信工学科に着任。2010年から現職。