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特集

2013/05/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

災害から多くの人を守りたい

大地震の発生予測の実現へ
地下天気図の開発を目指す

海洋研究所地震予知研究センター長 長尾年恭 教授

4月13日に淡路島で、17日には三宅島近海でマグニチュード(M)6をこえる地震が起きるなど、2011年3月の東北地方太平洋沖地震以後、各地で地震活動が活発になっている。もし、それらが天気予報のように直前に予測できたら、被害も最小限に抑えられるはずだ。地震の短期予測に挑み、昨年9月には希望者を対象に「地下天気図」のテスト配信をスタートさせた、海洋研究所地震予知研究センターの長尾年恭教授を訪ねた。

全世界で起きる地震のうち、10%は日本列島の周辺で起きている。発生した地震を感知する地震計も国や各地の研究機関によって全国に設置されており、その数は4000にも及ぶ。体に感じないものも含めきわめて高い精度で発生時間と、場所、規模を観測できる「世界でもまれに見る高度なシステム」(長尾教授)だ。もちろん、地震発生後にそのメカニズムを解明する「地震学」も世界トップレベルだ。
 
その一方で、「直前に発生日時と場所を予測する短期予測の研究はほとんど行われていないのが実情」と長尾教授は語る。「これから発生する地震を予測するためには、前兆として起きる自然現象をさまざまな角度から分析しなければならない。発生した地震のメカニズムを解明する基礎研究だけでは、直接地震の予測につながらないのです」

全国のデータを分析し発生前の現象を解明する
長尾教授は、電磁波や地震の発生数変化などの前兆現象を分析することで、短期的な予測の実現を目指している。その一つとして取り組んでいる「地下天気図」の研究では、大地震の前に地震活動が一時的に弱まる傾向があることに着目。国が地震計で観測し、毎日発表している微小な地震データのうち、震源からの距離、発生時間、規模のデータを独自に開発したアルゴリズムで解析し、地震活動の活発度を数値化。全国での傾向を時系列で追いながら、地震活動が弱まっている地点を見つけていく。「現状ではM7クラスであれば1カ月ほど前に、8クラスなら1年ほど前に兆候をつかみ、場所や規模はある程度予測できるまでになっている」
 
だが、M9をこえた2011年3月の東北地方太平洋沖地震では、それが役立たなかった。「発生後、40年前からの地震データを調べたら5年前に地震活動が弱まっている時期があり、それが前兆だったとわかった。精度を高めるためには、まだまだ解明すべき課題も多い」と話す。

複数の目を使って観測の精度を高める
精度を上げる方法の一つとして長尾教授が注目しているのが、地震発生前に震源域から出る、ULF帯と呼ばれる電磁波だ。これは発生の数日前から四方八方にまっすぐ飛び出す性質を持っているため、複数の地点で観測する体制が整えば震源や発生時期の予測精度を大幅に高められる。14年には、他の研究機関と連携した「地震先行現象プロジェクト」も始まる。地上観測だけでなく人工衛星も使って、地震前に起きるさまざまな電磁気現象やその発生メカニズムの解明に挑む。「地震の予知は、防災のための最後のとりで。海岸沿いの住民や高齢者など、少しでも多くの人を助けられるよう、より高い精度で予知できる技術を開発していきたい」



focus
身につけた知識は
広い視野で捉え直そう


学生時代は固体地球物理学を学んでいた長尾教授。地震予測を研究するようになったのは、25年ほど前に「ダイナミックな動きをする地球の未来がわかると面白い」と思ったのがきっかけだ。以来ずっと、この分野の研究を続けているが、その原動力は個人的な知的好奇心だという。「もちろん社会の役に立ちたいという思いはあります。でも根底にあるのは、より深く地球のことを理解したいという思いなんです」と語る。

研究に没頭する中で感じているのは、さまざまな知識を結びつけて考える習慣の大切さだ。「地球を構成する要素は、学問領域をこえて複雑にかかわり合っている。科学者は、専門の枠にとらわれずあらゆる謎に挑んだニュートンやガリレオらの姿勢を取り戻すべきだと思う」と語る。
 
その意識は、将来を担う若者にも求められると考えている。「情報量が多いと覚えるだけで精いっぱいになりがちです。でも知識は、広い視野を持って組み合わせ、何度も捉え直さなければ意味がない。そうして初めて、自分を取り巻く世界を正しく理解できるようになるはずです」

 
ながお・としやす 1955年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。大学院在学中の81年から83年には第22次日本南極地域観測隊・越冬隊に参加。理学博士。98年より現職。

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