Column:本棚の一冊
2013年5月1日号
『「非まじめ」思考法』


固くなった頭に語りかける一冊
生物学部生物学科 笠原 宏一 准教授



東海大学工学部に入学したころ、私は自分に自信が持てなかった。友人は自信たっぷりに発言し、行動し、とても輝いて見えた。どうにかしなければと思っていた。でも、何をしたらいいのか全くわからなかった。入っていたクラブの活動に没頭したが、なかなか自信には結びつかなかった。
 
あるとき、本屋でこの本に出会った。まさしく「出会った」のだ。「不まじめ」ではない、不まじめは悪いことだ。かといって「まじめ」でもなく、「非」まじめなのがいいのだ。はぁ? 何だ、こりゃ? 本書は、ものを正面から見るのは当然の見方だが、横から上から裏から、下からも見てしまい、新しい発想を出す指南をしてくれる。現在多く出版されているノウハウ本とは異なり、考え方の本質を説く内容である。
 
風鈴―最近、夏には電車内にも下げられているチリン、チリンと鳴るあれだ。そよ風で鳴り、すがすがしい音だけで周囲の人たちは優しく涼しくなる。この本では風鈴を「かねがね称賛している」と、その作用についていろいろと考察している。クーラーはハードウエアで実際の温度を下げるが、風鈴は心理的に体で感じる温度を下げている。費用対効果は、とてつもなく優れている。著者の説明に「目からうろこ」状態が続く。ものづくりの究極の視点がそこに存在するのだと教えられ、深く考えさせられる。そのほか、「火と水の共通点」や「地下鉄とカツ丼の共通点」などの思考訓練もさせてくれる。残念だが、自分の視野の狭さを痛感する。
 
学部2年生になって、将来は「研究」という仕事をしたいと思った。私はこれまで正面からしか見て(見えて)いなかったことを、苦労してでも横や下から見たくなった。この本を読んだからだ。思考を「非まじめ」にシフトすれば、新しい世界が垣間見えたし、もっと何かできそうな気がした。そして他の人に対するコンプレックスは解消した。自分に自信がついたためではない。自信などなくてもいいことに気づいたのだ。

あれから30年ほど経った今でも、この本をときどき手に取って読む。本は固くなってきた私の頭に語りかける。面白いアイデアを出すのは、実はそれほど難しくないのだよ。いいかい、着眼点の捉え方次第なのだよ、と。

『「非まじめ」思考法』
森政弘著
講談社文庫

 
かさはら・ひろかず 1961年神奈川県生まれ。東海大学工学部卒業。大学院工学研究科応用理学専攻修士課程修了。専門は植物生理学、宇宙植物学。