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特集

2013/07/01
教育の現場から
話題の授業や地域・企業と連携した課外活動など、東海大学の特色ある教育現場に迫ります。

東海大学心理教育相談室が開設

大学院生の臨床実習を充実
心のケアで地域に貢献する


「東海大学心理教育相談室」が、4月から湘南校舎のクラブハウス1階に開設されている。臨床心理士=キーワード参照=の資格を持つ大学院文学研究科コミュニケーション学専攻臨床心理学系の教員らが地域住民の心理相談に対応。同専攻の大学院生の実習施設としての活動も始まった。

湘南校舎がある神奈川県南西部で、大学が心理相談室を開設するのは初めて。今回新設された施設には3タイプの相談室と子ども向けのプレールームのほか、心理検査室などがあり、今年度の相談には無料で対応する。不登校や発達障害などの心理相談は、4人の教員(宮森孝史教授、近藤卓教授、芳川玲子教授、菅沼真樹講師)と同大学院修了で臨床心理士の牛山幸世さんが担当。現場で知識や技術を習得する授業「臨床心理実習」の一環として、大学院生20人が、運営や相談をサポートする。

大学院生はシフト制で電話受け付けや各部屋の備品管理を担当するほか、相談に陪席して内容を記録。親子相談では教員が親と面接している間、プレールームで子どもの表情や行動を観察する。さらに、毎月開催される「ケース・カンファレンス」では、一同が集まり担当ケースについて意見を交換。複数の教員からアドバイスを受ける。専攻主任の宮森教授は、「心のケアが重要だという認識が定着し、災害時はもちろん、日常的にも取り上げられるようになった。だからこそ、臨床心理士の実力とともに、養成機関である大学院教育の質が問われている。相談室の開設が、本学の臨床心理士の人材育成にもたらす意義は大きい」と力を込める。

現在、行政や近隣小中学校に向けたPRを進めているが、すでに教育機関の担当者が視察に訪れ、問い合わせも相次ぐ。同大学院修了で、伊勢原市教育委員会・教育センターの加賀屋千寿さんは、「土曜の開室や施設など環境が整っている。何より大学が運営していることが利用者の安心につながる」と話す。

実習施設の拡充で第1種指定目指す
大学院文学研究科コミュニケーション学専攻臨床心理学系は、2000年に開設。臨床心理分野で活躍できる人材の育成を目指し、文部科学省認可の(財)日本臨床心理士資格認定協会が認証する指定大学院第2種として、60人をこえる臨床心理士を輩出してきた。しかし、スクールカウンセラーの配置が制度化されるなど、臨床心理士の社会的ニーズの増加に伴い、07年には試験内容がより厳しくなった。
 
13年3月現在、実習施設などの要件を満たし、卒業後すぐに受験資格が得られるのは専門職大学院6校と指定大学院第1種148校。一方で、卒業後1年以上の実務経験(有給)が必要な第2種は13校だ。受験資格を得るには就業して経験を積むしかないが、現場では即戦力が求められる。

指導する芳川教授は、「十分な臨床経験がないまま複雑なケースに対応し、押しつぶされてしまうことも。卒業生はずいぶん苦労したと思います」と話す。「相談室ができて、教員が具体的な臨床事例を用いながら細かく指導できるようになった。学生にとって大きなサポートとなる」。学生リーダーの山田眞菜さん(大学院文学研究科2年)は、「学部生も目を輝かせながら相談室の見学に来ている。後輩たちのためにも、協力して相談室をいいものにしたい」と意気込んでいる。

現場で実感したカウンセリングの極意
これまでに、4人の大学院生が陪席や親子相談を経験。初めて陪席に臨んだ秋山健太さん(同)は、「実際の現場は学生同士のロールプレーとは全然違った。座学で学んだ知識や技術が、先生と相談者の会話の中にさりげなく組み込まれているのを体感し、“カウンセリングとはこういうことなんだ”と腑に落ちた。臨床実習の大切さを再認識した」と振り返る。

また、親子相談で子どものプレイセラピーを担当した米山実来さん(同1年)は、「相談は先生と別々だったので緊張しましたが、アドバイスをもらえる先生が身近にいる安心感がある。今後も積極的に取り組みたい」と意欲を見せた。宮森教授は「本相談室は、地域の誰もが気軽に利用できる存在でありたいと思っています。そして、臨床実習を積み重ねながら、長年の目標である指定大学院第1種の申請を目指していきたい」と話している。

(写真上から)
▽5月25日に行われた「ケース・カンファレンス」。一同が集まり各自の担当ケースについて意見を交換した
▽次の相談のために、プレールームに何を置くかを考える大学院生。相談者を迎えるしつらえも大切なケアの1つ
▽子ども向けのプレールーム
 
専攻主任に聞く
広い視野を持つ努力を
大学院文学研究科コミュニケーション学専攻臨床心理学系
宮森孝史教授

近年、臨床心理士になりたいという学生が増えています。社会になくてはならない職業ですが、楽ではありません。目指すのならそれなりの覚悟が必要です。悩みを抱えた人と向き合い、一日に何人もと面接する。実態を知り、それでも〝続けられる〞とイメージできるかどうかが大切です。専門職としてのスキルを磨く苦労もある。心に寄り添う優しさだけではなく、適切な距離を保つ厳しさも必要です。カウンセリングは社会への適応が難しい人をできるようにするためのもの。だからこそ、自身が社会性を身につけていなければならないのです。

臨床心理士を目指すのであれば「浅学」ではいけません。さまざまな知識に関心を寄せ、広い視野を持つ努力を続けてほしい。難しい壁でも乗り越える強さのある、たくましい学生を育てていきたいと考えています。
 
東海大学心理教育相談室
▼開室:月曜日から土曜日▼受け付け:午前10時から午後5時まで▼相談種類:個人療法、集団療法、親子相談(親面接・プレイセラピー・心理検査および発達検査)、コンサルテーション(専門機関への紹介)、スーパービジョン(教員による学外の臨床心理士に対する指導)▼相談料:無料※料金見直しの場合は連絡▼問い合わせ:0463-58-1211(内線3127)
Key Word 臨床心理士
文部科学省の認可する(財)日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格すると取得できる資格。臨床心理学に基づく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする専門家として認知されている。資格取得者はスクールカウンセラーのほか、医療、福祉、司法など多様な分野で活躍中。

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