Column:知の架け橋
2014年2月1日号
「健康・スポーツを語る」
医学部医学科外科学系整形外科学 内山善康 准教授

便利な生活で失った健康
適度な運動習慣で取り戻そう


興味深い報道を目にした。幼児の顔面負傷が昭和の時代よりもずっと増えているという。頭部が重くバランスがとりにくい幼児は転びやすいが、本能的に手をつき、頭部損傷から自身を守っている。その当たり前の動作ができない幼児が増えているらしい。原因の仮説の一つに挙げられていたのが、乳児期の「ハイハイ」期間が短くなったことによる腕の筋力不足だ。現代日本の住環境では、子育て世代に広い空間を与えてはくれない。衛生上や安全面からも、早く伝い歩きしてほしいと考えても無理はない。しかし、ハイハイは腕の筋力や股関節機能の増強に絶対必要な運動である。

子どもは元気に外を駆け回り、全身運動で身体のバランス感覚を養い、反射神経や感覚機能を身につけてきた。生活の中で自然に身につけられたはずの機能が、環境の変化で未発達のまま成長するのが現代人の姿なのかもしれない。乳児ですら運動不足になるほど激変し便利になった生活の代償として、運動量は減り、筋力低下を招くようになってしまった。


昨今の日本は、高齢者人口の増加と医療技術の高度化により医療費は増大するばかりだが、経済の低成長と労働人口の減少(税収入減)が相まって、もはや国民皆保険の維持は難しくなっている。そこで政府は、高齢者医療費を抑制するため、健康長寿、介護予防を推奨しているが、これらを阻害する因子が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と認知症、加齢による運動器機能不全だ。日本整形外科学会は、加齢による運動器機能不全を予防するべくロコモティブシンドローム(運動器症候群)を提唱し、改善に取り組んでいる。

人間の身体は適度のストレスにより細胞が活性化され、良好な恒常性を維持している。運動も細胞ストレスの一種であり、骨格筋や骨、靱帯、腱といった運動器の成長は、運動ストレスに多くを頼っている。より良質な運動器を得るためには、適度な運動ストレスが重要なのだ。日々の行動に少しの運動意識を取り込んで、長い期間ゆっくり継続する。それだけで、劇的に変わるだろう。運動は、やろうという意欲さえあればできる。3日続けば習慣になり、生活習慣になれば意識しなくても健康生活が送れるはずだ。

近ごろは、特に高齢世代の運動意欲が高いという。健康に不安を感じて慌てて運動を始める姿がみてとれるが、せっかくなら若いうちから継続して運動できたらと思う。日本の義務教育では体育、クラブ活動などで運動習慣を身につけさせているのに、残念ながら就業とともに運動から離れてしまうようだ。いかにして運動習慣を継続させるかが今後の医療費削減、健全な社会構造をつくるポイントになると考えている。

東海大学は、とりわけ運動に対する意識が高い人たちが多い。運動経験や知識のある人たちから、ぜひ運動習慣の啓蒙をお願いしたい。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という実践を、一生にわたって継続してほしいと願う。

 
(写真)東海大学ではスポーツの楽しみ方を広める多様な活動をしている。チャレンジセンター「スポーツ貢献プロジェクト」の学生たちによる「東海スポーツDAY」も、その一つだ

うちやま・よしやす 1967年神奈川県生まれ。東海大学医学部卒業。高校時代に柔道競技で2年連続高校総体準優勝。専門はスポーツ医学・肩関節外科。
※イラストは筆者提供