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特集

2014/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

教会は“生きた美術館”

かわいくって、ちょっと不思議
中世ヨーロッパの美に迫る

文学部ヨーロッパ文明学科 金沢百枝 准教授

西洋美術史──特に“ヨーロッパ”が誕生したとされる、11世紀から12世紀ごろの中世・ロマネスク期のキリスト教美術を研究している金沢百枝准教授。研究の舞台となるのは、今も人々の暮らしの一部として使われている古い教会や聖堂だ。そこで見られる、かわいくって、ちょっと不思議な美の世界を教えてもらった。

楽器を弾く動物や踊る怪物、さらには宇宙人のような不可解な人物まで……。どれもこれも思わずクスッと笑ってしまう、肩の力の抜けたものばかり。ロマネスク期の教会や聖堂に、今も残っているモチーフだ。

古代ローマやゲルマンの様式に、東方の影響も加わってできたロマネスク美術。石造りの厚い壁や半円アーチの教会建築が、特徴となっている。「キリスト教美術というと、堅苦しい、キリスト教を知らないと理解できない、と思う人も多いのではないでしょうか。でも基本的に中世のキリスト教美術は、不特定多数の人に向けたメッセージです。そのため、わかりやすく親しみのあるデザインが多い。キリスト教とは直接関係のない、奇想天外なものもたくさんあるんですよ」
 

そもそもロマネスクとは“ローマ風の”を意味する言葉。金沢准教授は中世ヨーロッパが古代ローマからどのようなものを受け継いだのかを、美術や建築の側面から解き明かすことを目的に研究に励んでいる。主に取り組んでいるのが、教会の軒下に見られる「持ち送り」(柱や壁から突き出して、庇(ひさし)や梁(はり)を支える建築部材の一つ)と、柱の上部を飾る柱頭彫刻、そして教会内部を彩る床モザイク。聖書や聖人伝などに直接関係のない非キリスト教的モチーフが、どこから来て、どのように変化していったのかを調べている。

古典的な装飾から多彩なモチーフへ
たとえば柱頭彫刻を例に挙げると、主に古代ギリシアには3種類、古代ローマには5種類しかなかったが、ロマネスク期には多様化。それまでの古典的な装飾を単純化し、キリストの物語や動物など、モチーフは爆発的に増えた。「すでにある形をもとにしながらも、それを自由に崩して、結果的には全く違うものになっている。作り手の遊び心が感じられます」。
 
ロマネスク期の教会や聖堂が残るのは、昔ながらの町並みが残る田舎町がほとんど。村から離れた場所や、山頂にあることもある。ここ数年はイタリアを中心としているが、それぞれの共通点や変化の軌跡をひもとくためにも、広範囲の調査研究が不可欠だ。これまでにもイギリスやフランス、ノルウェー、チュニジアなど、多くの国を訪れている。
 
「“俺が、俺が”とギラギラと前に出るような押しの強さではなく、あくまでも純粋に、澄んだ雰囲気を漂わせているのがロマネスク美術の魅力です。でも残念ながら日本では、ルネサンスや印象派などに比べると、まだまだメジャーな存在ではありません。研究を通じてその美しさや楽しさを、多くの人に伝えていきたいと思っています」

(写真上から)
▽イタリア・プーリア地方、オトラント大聖堂の床モザイク(1163─65年)
▽旧約聖書のヨナが、嵐の海で怪魚に食べられる場面。パクッと食べられる瞬間を、とぼけた表情で表現している
▽(左)金沢准教授がイチオシする「イヌとウサギ」の彫刻。イギリス・ヘレフォードシャー、キルペック教区聖堂の持ち送り彫刻(12世紀)
▽(右)イタリア・カゼンティーノ地方、ロメナ教区聖堂の柱頭(12世紀)。「かわいい」と思いきや、なぜか左手には生首が!


focus
“形”の美しさに魅せられて
理系女子から美術史家に転身


父親の仕事の関係で4歳から10歳までをインドで、中学・高校時代をイギリスで過ごした金沢准教授。「実は私、もともとは理系女子。大学では生物学を専攻していました」とほほえむ。きっかけは、生き物や葉っぱなど自然界に存在するものの形の美しさに興味を持ったこと。ところが研究を進めるうちに、「私には生き物や葉っぱがとてもきれいに見えるけど、それはなぜ?」という疑問が……。美の正体を探るため、理学の博士号を取った後にロマネスク美術の道へ。
 
「スペイン語やフランス語、カタルーニャ語など、大学院に入り直してから新たに学ばなければならないことが膨大にありました。でも自分で選んだ道だったから、不安はありませんでしたね」
 
各地の教会を調査するには、旅が欠かせない。道に迷ったり、せっかくたどり着いても鍵がかかっていたりと、ハプニングもたくさんある。しかし、ヨーロッパを本当の意味で理解するためには、暮らしの中に息づいている〝教会〞を知ることが大事だという。
 
「社会人になると、なかなか長期休暇をとれません。だからこそ学生の皆さんには、今のうちに積極的に旅に出てほしいですね。そして海外に出かけたら美術館や観光名所だけでなく、教会にも足を運んでください。もちろん、信仰の場であるということを忘れずに」

 
かなざわ・ももえ
1968年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科植物学専攻、同大学院総合文化研究科修了。理学博士、学術博士。専門は西洋美術史、ロマネスク美術。著書に『ロマネスクの宇宙』、共著に『イタリア古寺巡礼』シリーズなどがある。

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