Column:本棚の一冊
2010年9月1日号
『在日外国人 新版─法の壁、心の溝─』


大学時代に出会った本と先生
教養学部国際学科 荒木圭子講師



皆さん、毎日いろいろな人やモノに出会っていますか? 私もさまざまな出会いを経て現在に至りますが、あとから振り返ってみると、今の場所にたどり着くためには、これまで経験したどの出会いも必然であったように感じます。大学時代に出会ったこの本は、履修していた授業の指定図書でした。その授業を担当していたのが、著者の田中宏先生です。田中先生は大学院生のころから在日外国人の待遇改善に尽力しており、この本は在日外国人にまつわるさまざまな問題について、自身のかかわりを交えてまとめたものです。

恥ずかしながら、それまで私は在日コリアンや日本にいる外国人の状況などについて、ほとんど何も知りませんでした。先生の授業を履修してこの本を読み、大きな衝撃を受けたのを覚えています。自分が無知であったことへの衝撃です。授業で、田中先生は教壇を歩き回りながら、「在日外国人」との共生について、確信に満ちた語り口で論じていました。この授業は学内でも非常に人気があり、いつもたくさんの学生でにぎわっていました。

私たちを強く惹(ひ)きつけていた先生独特の「迫力」は、先生自身が在日外国人に関するさまざまな「現場」に直接かかわっていたことから生まれていたのだと思います。のちに私はアメリカの大学院に留学しますが、ある授業で「これまでに経験した最高の授業」としてこの授業を紹介しました。私の専攻していたアフリカン・ディアスポラ研究では、しばしば研究者自身の研究テーマへのかかわり方が問われます。人種差別など、研究者自身も第三者的立場ではいられないような問題を扱うことが多いためです。

田中先生の迫力ある授業からは、先生の研究テーマに対する真摯な姿勢が伝わってきました。留学中、それを思い出すことによって、自身の研究テーマへの取り組み方についてあらためて考え直すことができました。この本との出会いは、たまたま履修した授業がきっかけでした。しかし、今から考えると、なくてはならない出会いだったように思います。今これを読んでいる皆さんも、あとから必然だったと思えるような、たくさんの出会いをしてほしいと思います。

『在日外国人 新版─法の壁、心の溝─』
田中宏著(岩波新書)
※大学時代に読んだのは新版ではなく、1991年版

 
あらき・けいこ 1972年東京都生まれ。千葉県で育つ。一橋大学法学部(国際関係)卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専門はアフリカン・ディアスポラ研究。留学先はカリフォルニア大学バークレー校。