Column:本棚の一冊
2014年5月1日号
『電気化学測定法 上・下』


“電気化学”に導いた本
理学部化学科  小松真治 講師



“電気化学”というと、電池や電気分解といったイメージが強いが、電極と電解液との間の反応を調べるという学術面のほか、電池に代表されるエネルギー変換、防サビやセンサーなどの実用面でも活躍する学問である。実は、電子のやりとりを軸とした現象には、ほとんど電気化学がかかわっている。ここで紹介する本は、専門分野である電気化学に筆者が導かれたきっかけの書である。
 
大学時代は高分子化学に興味があり、教授が授業を行っていた研究室に入った。ところが、そこでは高分子の合成や物性などの研究は全くなく、水溶液中の電極上に乗った物質の酸化還元を調べるという、いわゆる“電気化学”の研究室だった。筆者は研究室の助教授のもとで卒業研究にいそしんだのだが、この先生の専門が、電極上で起こっている酸化還元をさらにスペクトルで調べることであった。つまり、化学に電気がかかわって光もついてくる。高分子に興味があって入った研究室だが、「物理系」の化学である電気化学を専攻することになった。この卒業研究以来、ずっと電気化学が専門である。
 
「物理系」であるため、電気化学の専門書は小難しいものばかりだが、本書は、数式バリバリでもなく、しかも現象論に忠実で、日本語も平易で、読むのに最も取り組みやすいものだった。本の読破がきっかけで、第一著者の研究室に属そうと考え、実際、博士課程ではその研究室に入り、博士号を取得した。
 
実は高校時代の理科では、化学と生物を学習した。しかし、筆者は数学が得意だったので、大学では「物理化学」をすんなり受け入れることができた。このことから、「物理系」化学である電気化学の理解も、さほど困難ではなかった。高校時代に「物理」を習っていなくても、「物理化学」は得意になれる。
 
今、「教えられていないから、無理」そんな学生が目立つ。たとえ骨のある内容でも、足りない知識を補いながら、自分で敷居を乗り越えて理解する。そうすれば興味も持て、おのずと新境地も開けてくるだろう。筆者は高校では山岳部に所属し、毎週末のように山々を縦走していた。一冊の専門書を読破することは、山登りの達成感に似たものがある。大切なことは、簡単に投げ出さないための「根性」を持つことだ。


『電気化学測定法 上・下』
藤嶋昭・相澤益男・井上徹著
(技報堂出版)

 
こまつ・しんじ 1974年長崎県生まれ。長崎大学工学部卒。九州大学大学院工学研究科分子システム工学専攻修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了。博士(工学)。